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スカーレット・バーニング・ルビーとエメラルドグリーンウェル嬢の会話

 ある夜、酒場のカウンターでスカーレット・バーニング・ルビーがお酒を飲んでいると、1人の女性が酒場へと入ってきて隣に座りました。

 それは、全身を緑系統の色で統一した衣装で身を包んだ女性、エメラルドグリーンウェル嬢でした。

「アラ、エメル。珍しいわね。あんたが、こんな場所に来るだなんて」

「こんな所で会うとは奇遇ね。わたくしも、たまにはお酒でもと思って」

「あたしは、いつも、ここにいるから。偶然でもないんでもないね」


 エメラルドグリーンウェル嬢は、国家に雇われた魔術師なのです。それに対して、スカーレット・バーニング・ルビーは、自由気ままな冒険者。

 けれども、実は2人には共通点がありました。同い年で、同じ幼稚園にも通っていたのです。小学校も、中学校も同じ。この世界にも幼稚園や保育園。学校などはあります。

 結局、その後、2人の進む道は分かれてしまいましたけど。


 ほろ酔い加減のスカーレット・バーニング・ルビーが話しかけます。

「ねえ、エメル?」

「何?スカー?」

 幼い頃から一緒だった2人は、お互いを愛称で呼び合っています。

 エメラルドグリーンウェル嬢は、エメル。スカーレット・バーニング・ルビーは、スカーと呼ばれています。

「あたしたちも、そろそろ、そういう時期じゃない?」

「何の時期?」

「結婚とか、そういう」

「ああ…」

「あたし、最近、よく考えるのよね。そういうコト。あんたは?」

「でも、それどころじゃないわ。こんな世の中ですもの。結婚より何より、先に魔王を倒さないと」

「あんた、ほんとにそんな夢物語を信じてる?魔王を倒せたりすると思ってるの?」

 エメラルドグリーンウェル嬢は、ちょっと驚いた顔をしてから答えます。

「もちろんよ!当たり前じゃないの!だって、わたくしはそのために働いているのですもの!」


 しばらくの沈黙があって、スカーレット・バーニング・ルビーは、グラスの中のお酒をゴクッと飲み干してから言いました。

「おかしいと思わない?なんだかんだ言いつつも、この何十年も、世界はずっとこのままなのよ。魔王が本気を出せば、とっくの昔に滅んでいるはずのこの世界が。ほんとは、魔王は世界を滅ぼす気なんてないんじゃないかしら?」

「まさか…」

「きっと、魔王は楽しんでるのよ。人間たちが苦しむ様を見て。滅んだりしないように、絶妙に手加減してるの。人が苦しんだり、不幸になったり、そういう姿を見て楽しむのが好きなの。そういう奴なのよ」

 スカーレット・バーニング・ルビーのその解釈は、事実とはちょっと違っていました。けれども、魔王が適度に手加減をしているという部分は当たっていたのです。

「そんなコトないわ。きっと、人の方も努力しているから。だから、魔王の軍勢に滅ぼされずに済んでいるの。そうやって力が均衡している状態なのよ」

 そう、エメラルドグリーンウェル嬢は答えつつ、自分でもそこに疑問を感じていたりもしたのです。

 確かに、おかしい。こんなに長い間、力が均衡しているだなんて状態が続くかしら?何かしらの意図を感じる。誰かが、裏で糸を引いている?もしかして、魔王なんて存在しないのでは?

 たとえば、商人が自分たちの利益を確保するために、架空の魔王を作り出しているとか?でも、実際に魔物は攻めてきている。それも、誰かが利益を得るために作り出しているというの?

 そんな風に考えるのでした。


 次のお酒が注がれたグラスを手に、スカーレット・バーニング・ルビーが続けます。

「ま、いいわ。そんな話は。それよりも、結婚よ!時代がどうあろうとも、女の幸せの1つは、結婚!幸せな家庭を築いて暮らしていくコト。そうでしょう?」

「それは、まあ、ね…」

「エメル、あんただって、いつまでも1人ってわけにもいかないでしょ?働きながらでも家庭を持つことはできるわ。いい人とかいないの?」

「だって、ずっとお仕事だし。いつも、研究室に閉じこもってばかりだし。出会いの場だってないもの…」

「出会いなんていくらでもあるでしょ!あんた、天下の国家公務員なのよ!お城の中ですれ違う人とか、気になる人の1人や2人はいるでしょ?」

 そこで、エメラルドグリーンウェル嬢は、ちょっと考えます。

 そうして、1人の男の姿を思い浮かべました。

「そういえば、気になるっていえば、1人だけ…」

「え?誰?どんな人?」

 スカーレット・バーニング・ルビーは、即座に食いついてきます。

「どんなって…ちょっと変な人なんだけど…」

「変な?たとえば、あんな?」

 そう言って、スカーレット・バーニング・ルビーが指さした先にいたのは、勇者アカサタでした。酒場の一角で、いつものようにバカ話に花を咲かせ、狂った宴会芸を披露しています。

「アッ!」と言って、エメラルドグリーンウェル嬢は、驚きました。「い、いたのね。あんなっていうか、あの人…」

「えええええええええええええええ!!アカサタ!?あんなのがいいの?」

「いいや、いいって言うかなんて言うか。ちょっと気になる人だな~って…」

「相変わらず、変わった趣味してるわね。昔から、どこかトボけたようで、集めてる人形なんかも変わってたし。でも、ま、おもしろい奴ではあるわね。結婚相手としては、どうかと思うけど…」


 またしばらくの間があって、スカーレット・バーニング・ルビーは、しんみりとした声で呟きます。

「あたしね、あんたの生き方ちょっとだけ羨ましかった」

「わたくしの生き方?」

「そう。魔法大学に進んで、国に雇われて、研究室に閉じこもったりして。最初は、バカだな~って思ってた。でも、そうじゃなかったのかもって思うようになってきた」

「どうして?」

「だって、安定してるじゃない。あたしみたいに、常に命の危険にさらされているわけでもない」

「まあ、それはね。でも、部署によっては、危ない任務も多いわよ。それに、いざとなれば、わたくしだって戦わないと」

「そう。最初は、冒険者の方が気ままでいいと思ってた。国の下で働いて、魔王討伐に向ったって、帰ってこられなくなるだけだし。あんたみたいに研究所に入りびたりの人生もつまんないし。だったら、外で魔物相手に戦闘してる方が楽かもって。自分で相手を選んで戦えば、そうそう命を落としたりもしないだろうし」

「そうね」

「でも、いざ“結婚”の2文字を頭に描いた時、あんたの生き方の方が正解だったんだって気づいた」

 フフフ…とエメラルドグリーンウェル嬢は笑ってから答えました。

「わたくしは、あなたの生き方の方が羨ましかったわよ、スカー」

「あたしの?」

「そう。いつも自由で、活発で。思ったコトを口にできて。子供の頃から、そんな生き方が羨ましくてたまらなかった。わたくしには、そんな勇気は与えられていませんでしたもの。ずっと、恐くて恐くてたまらなかった。だから、安全な道を選ぶことしかできなかったの」

「そっか…」

「今度生まれ変わったら、あなたみたいな人生を歩みたいなと思っているのよ」

 スカーレット・バーニング・ルビーは、それには何も答えません。ただ、少し嬉しそうに笑みを浮かべるだけでした。


 こうして、夜は更けていきます。

 以前よりも、ちょっとだけ打ち解け合えたような気のする2人の女性なのでありました。

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