ある1人の労働者の話
ある街に、1人の男が住んでいました。
男はたいそうマジメな若者で、それはそれは懸命に働き続けていました。
男のマジメさが評価され、工場主から褒められたり…はせず。
その働きぶりから、賃金が上がったり…もせず。
その男は、ただひたすらに過酷な労働に耐えるのみでありました。
その男だけではありません。
世界の大部分は、そのような人々で成り立っていたのです。工場や農場で、朝から晩まで働き通し。手に入るのはわずかな収入のみ。世の中の物価は上がっていき、労働時間は伸びるものの、生活はちっとも楽にはなりません。
結局、この話に出てくる男も、無理な労働がたたって体を壊してしまい、全然働けなくなってしまいました。そうなると、あとは転落するだけの人生。
最初は金貸しにいくらかのお金を借りて、どうにか生活していましたが、それにもすぐに限界が来てしまいます。新しくお金を借りることはできず、それどころか借金の額は、時と共に膨らんでいきます。
世界は非情なのです。1度壊れてしまった部品になど、誰も興味は示しません。あとは、ただ錆びて朽ちていくのを待つだけ。壊れた部品の代わりなど、いくらでも存在するのですから。
けれども、ここで1つの奇跡が起きました。
体を壊し働けなくなった男に、手を差し伸べてくれた人がいたのです。その人は、男の借金を全部肩代わりしてくれ、当面の生活費まで工面してくれました。
それは、人集めワヲンでした。ワヲンは、行き場のなくなった子供たちだけではなく、このような人たちにも目をかけてくれていたのです。
男が元の健康を取り戻すと、ワヲンは、こう声をかけてきました。
「さて、どうするね?元の職場に戻るかい?似たような仕事をして、暮らし続けるかい?それとも、私と一緒についてくるかね?」
「ついていく?仕事を紹介してくれるのですか?」
「ああ、君にピッタリの仕事をね。もちろん、それを君が望むならば、だが」
男は、1も2もなく答えました。
「ついていきます!ついていきますとも!どのような仕事であれ!命の恩人である、あなたの紹介ならば!!」
こうして、男は人集めワヲンに連れられて、どこへやら消えてしまいました。
この時代、世界には、こうして急に姿を消してしまう人が何人もいたという話です。




