スカーレット・バーニング・ルビーの分岐点
炎系の魔法の使い手スカーレット・バーニング・ルビーは、迷っていました。
勇者アカサタたちと一緒に砂漠渡りの仕事をしてからというもの、お金の方はバンバン貯まっていきました。正直、もうそんなに苦労して働かなくてもいいくらいに。
「あたしも、もう20代後半。そろそろ、身の振り方を考えなくちゃね」
そう、1人で呟きます。
「結婚…そういうのも、いいかも知れない」
スカーレット・バーニング・ルビーは、そんな風に考えます。
彼女自身、魔物との戦いは、そんなに好きではありませんでした。お金のために仕方なくやっている。それだけでした。
たまたま、炎の魔法を習得する才能にたけていて、そこに向って努力し続けてきただけ。それに加えて、いくらかの格闘での技能も身につけました。剣やナイフも、少しは扱えます。それらは全て、生きていくため。こんな世の中で、生き抜くには、そのくらいのコトはしなければならなかったのです。
でも、それも、もう終わりにするチャンスがやって来ていました。
質素に暮らしていけば、もう一生困らないだけのお金が銀行に蓄えられています。ちょっとした贅沢をするにしても、街で少し働けば大丈夫でしょう。もはや、命を危険にさらしてまで、魔物たちと戦う必要はなくなってしまっていたのです。
縁談の話だって、いくらもあります。性格はちょっとキツイ部分もありますが、逆にそれを魅力だと思ってくれる男性もいるでしょう。見た目だって悪くはありません。世間の平均的な基準からすると、上の方でしょう。おっぱいだって、大きくて張りがあるし。勇者アカサタが“水風船おっぱい”と表現した立派な塊が、その胸についているのです。
スカーレット・バーニング・ルビーは、こうも考えたりします。
「たとえば、街で魔法を教える教室なんかを開いて、細々と暮らしていく。そういう方法だってあるんじゃないかしら?正直、魔王討伐になんて興味もないし…」
“魔王討伐”それは、彼女にとっては、単なる夢物語に過ぎませんでした。
これまで、何人もの冒険者が魔王の城へと挑んでいきましたが、誰1人として戻ってきた者はいません。おそらく、みんな、魔王やその配下の者の手にかけられて死んでしまったのでしょう。
だから、そんなものは、誰にも到達できない危険な山登りにしか思えなかったのです。
夢を抱くのは勝手。けれども、現実にそれを達成できるかどうか、お話は別。現実的なモノの考え方をするスカーレット・バーニング・ルビーにとっては、魔王と戦うなど、賢い選択肢だとは思えなかったのです。
だから、その実力を認められつつも、国の魔王討伐対になどは志願していませんでした。相手の方から声をかけてくるコトだって何度もありましたが、そのたびに断り続けていたのです。
そんな風に迷いながら、それでも結論を出せずにいるスカーレット・バーニング・ルビーなのでありました。