人には、得手不得手が存在する
サンドワームとの戦闘が終わり、再び商人と傭兵の一行は砂漠を進み始めました。
勇者アカサタは、傭兵のリーダーグレイに向って、こんな風に話しかけています。
「オレ、全然役に立たなかったっすね。才能ないんっすかね…」
グレイは、ションボリしているアカサタを慰めます。
「そんなコトないさ。君は、立派にやってるよ。初めての敵だったんだし、仕方がない。それに、前にも言ったろう?生き残るのが大切だって。君は、見事に生き残ってみせたじゃないか」
「けど、なんか中途半端なんっすよね。剣の腕だって、他の人に比べりゃ大したことないし。魔法だって、どれもこれもしょぼいし」
フム。と、ちょっと考えてからグレイは答えました。
「オレは、こういう仕事がら、一通りの武器は扱えるようにしている。普段は剣やナイフを主に使っているが、イザとなれば斧だろうが棍棒だろうが槍だろうが手にして戦う。弓だって射る。ただ、魔法の方はからっきしだ」
「それで?」
「つまり、人には得手不得手があるってことさ」
「得手不得手?」
「そう。人にはそれぞれ、得意な能力と不得意な能力がある。だから、得意な能力を極めればいい。それとは逆に、ある程度、能力に幅を持たせる必要もある。この2つを同時に行うのだ」
「“極める”と“幅を持たせる”」
「そうだ。アカサタ、お前にとっての得意は何だ?まずは、それを考えろ。話は、それからだ」
得意か~?何だろう?エロかな?
などと考えながら進み続ける勇者アカサタでありました。
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その後も、砂漠での戦闘は続きます。
サンドワーム以外にも、サソリやヘビなどの毒を持った魔物がウヨウヨ生息しています。それも、小型の生物ではありません。大型犬くらいの大きさがあります。なので、砂漠を渡るには、戦闘力だけではなく、この手の毒を打ち消す魔法や薬草などが必須となるのでした。
そのような敵との戦闘を重ね、勇者アカサタも、徐々に成長を遂げていきます。
最初は苦戦していたサンドワームとの戦いも、回数をこなすことで段々と慣れてきました。
「ヒャッハ~!やっぱり、オレ様は天才だぜ!!」なんて、調子に乗っています。都合がいいですね。
こうして20日以上もかけて、一行は見事、砂漠の反対側まで到着したのでした。
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ちなみに、これと同じ頃、賢者アベスデは砂漠の街デザートローズへと到着していました。
広い砂漠です。反対側から歩いて渡っても、どこかで気づかずにすれ違っていたのかも知れません。こうして、今回は惜しいところで勇者アカサタと出会うことはありませんでした。




