砂漠の戦闘
大地を揺るがし、砂を吹き上げながら現われたのは巨大な虫でした。それも、蛇のように長い胴を持った1匹の虫。
その体の大部分は、砂に埋もれていて見えませんが、横幅だけで4~5メートルはありそうです。全長、何十メートルの長さがあるのかわかりません。
「サンドワームか!デカイな!」
傭兵のリーダーであるグレイが、そう叫びます。
サンドワーム。もしくは、砂漠に住んでいるのでデザートワームとも呼ばれている生き物。それは、ミミズやゴカイのような姿をしています。ただし、大きさが桁違い。生まれたての状態でも、人よりも遥かに大きく、時には全長100メートル以上に成長することも。
「コイツ!かなり巨大に成長してやがる!」
誰かが、そう叫ぶのが聞こえてきます。と、その瞬間、サンドワームがその巨体を揺らしながら商人たちの乗るラクダの群れへと突撃してきました!!
「危ない!」
傭兵の1人が叫びますが、間に合いません。巨大な長虫は、そのまま何体ものラクダと人を吹き飛ばし、砂の中へと潜って行きました。物凄いスピードと破壊力です。
幸い、直撃は避けたようです。パッと見た感じでは、目があるのかどうかもわかりません。どうやら、精密動作性は低そうです。ただ単に、直感的に感じた方向に向って突進してきているだけといった感じ。それゆえに、命中率は低いのでしょう。
ただし、動きは意外と俊敏。しかも、あの巨体です。直接攻撃を食らわなくとも、近くの地面に衝突した衝撃だけでも、吹き飛ばされてしまいます。鍛え上げた肉体を持つ戦士や剣士でも、たまったものではないでしょう。まして、何の訓練も受けていないただの人ともなれば…
勇者アカサタと女勇者ハマヤラも、臨戦態勢に入ります。
「どこだ?どこに行った?」
アカサタは敵の姿を探しますが、1度砂の中に入ってしまうと、なかなか見つけ出すことはできません。ただし、ゴウゴウと地面が揺れているので、近くの地中を這い回っていることだけは確かです。
「足元よ!」と、女勇者ハマヤラが叫んだ時には、時すでに遅し。勇者アカサタの真下から地面が盛り上がってきます。
「マッチ・ヘ・ボンバー!!」
勇者アカサタが呪文を唱えると同時に、アカサタの体は数メートル前方へと飛んでいきました。その瞬間、サンドワームがその巨大な顔を地上へと現しました。正確には、どこまでが顔でどこからが体なのかわかりませんが、地面に出てきたのはサンドワームの先の部分です。
ちなみに、マッチ・ヘ・ボンバーとは、勇者アカサタが得意とする呪文の1つ。自らが発するオナラに火をつけて、敵を攻撃します。その威力は、以前よりも格段にパワーアップしており、勇者アカサタは爆発の勢いを利用して、前方に脱出したのでした。
おかげで、敵の攻撃を食らうことはなく、ほぼ無傷の状態です。
ただし、サンドワームの方も全くダメージを受けた様子がありません。
ヒュヒュヒュンと、こぎみよい音を立てて、アーチャー部隊の矢が敵を襲います。
ストトトトンッと、いくつかの矢がサンドワームの体に突き刺さりますが、痛みを感じている様子はありません。ダメージを受けていないのか?それとも、痛覚が存在しないのでしょうか?
続けて、魔法使いの炎の攻撃が繰り出されます。勇者アカサタが使う炎の魔法とは桁違いの威力です。
今度は、反応がありました。熱さを感じているかのようにサンドワームは、その巨体を左右に揺らします。まるで「嫌よ!嫌よ!」と声を上げているようでした。
その隙に、傭兵のリーダーグレイや、女勇者ハマヤラなど剣を持った者達が斬りかかります。
パシュ~ッと巨大な虫の身体から、紫色の変な臭いのする体液が噴き出しました。これまでで、一番効果があったようです。
勇者アカサタも体勢を立て直し、敵に向っていきますが、あまり上手くはいきません。
「どうしたのよ?アカサタ?得意の“真実を見極める目”は?弱点を突きなさいよ!」と、女勇者ハマヤラにせかされますが、そうは問屋が卸しません。
「いや~、それが、どうにもこうにも上手くいかなくて。どうやら、初めて戦う敵には、通用しないらしい。何度か対戦して、弱点を見極めないと…」
「なによ、それ~!まったくもう。役に立たないわね~」
そんな風に言われても仕方がありません。どうしようもないものは、どうしようもないのです。足手まといになってばかり。
どうやら、今回は勇者アカサタの出番はなさそうです。いくら戦闘経験を積んできたとはいえ、他の傭兵たちに比べれば、まだまだ赤子のようなものなのですから。
その後も、炎で強化された矢を何本も突き立て、数え切れないほどの回数、剣や斧・槍などで斬撃を加えていきます。
こうして、サンドワームは何度も砂の中に潜ったり現われたりを繰り返しながらも、徐々にダメージを受け弱ってきました。最後には、頭の部分を胴体から切り離されて、戦闘は終了しました。
それでも、しばらくの時間、切り離された胴体はビクンビクンと巨体を揺らしながら、暴れ回っていましたが。
再び、辺りに静寂が戻ってきて、傭兵のリーダーグレイが言いました。
「ま、こんなもんか。いきなり、結構な被害を受けちまったな…」
どうやら、戦闘での死者はいないようでしたが、商人の中には最初の攻撃で吹っ飛ばされて、骨を折った者や気絶している者も何人かいました。
回復役の僧侶がそれらの傷を癒し、残りのメンバーは飛び散った荷物を集めたり、遠くへ逃げていったラクダを探してきたりします。
商品の方も、いくつかは傷ついたようでしたが、大部分は無事のようでした。




