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砂漠の街デザートローズ

 さて、勇者アカサタと女勇者ハマヤラを含めた傭兵グループと商人の一行は、砂漠の街デザートローズを目指して進んでいきます。


 その道中で、このような会話が交わされています。

「こっからが厳しい旅になる。我々を守ってくれ、勇者アカサタ君!君は戦力になる。間違いなく、戦力になっているんだ」

 そう、商人のリーダーに言われます。どうやら、アカサタは、かなり期待されているようです。

 それは、そうです。魔法の方は、まだ大したことはありませんが、剣の方はかなりの腕前。この世界にやって来てからというもの、結構な数の戦闘をこなしてきました。

 その上、伝説の画商イロハ・ラ・ムーから学んだ“真実を見極める目”もあるのです。その能力は、まだ未完成とはいえ、かなりの確率で、敵の弱点を突くことができるようになっていました。


 しばらくの沈黙。カタコトと小刻みに揺れる馬車の音と、ガラゴロと鳴る車輪の音だけが響いてきます。

「砂漠を渡れば、大儲けできるんっすよね?」と、勇者アカサタ。

「そりゃ、そうさ。これまで仕入れてきた商品を、砂漠の向こうの街で売ってやる。それで一儲け。その金で、向こう側で別の商品を仕入れて持ち帰る。それをこちら側で売る。それで、また一儲けさ!」

「いいっすね!いいっすね!それで、おっぱい牧場も建てられるっすかね?」

「おっぱい牧場?なんだね、それは?」

 ここで、また勇者アカサタお得意の壮大な夢の話が始まります。そうして、馬車の中は大うけ!なごやかな雰囲気が広がっていきます。


         *


 そうこうしている内に、砂漠の街デザートローズへと到着しました。

 ここで準備を整えて、これから危険な砂漠越えを決行するのです。


 砂漠とはいっても、なにも砂場の砂のような場所がひたすら続いているとは限りません。砂漠にもいくつかの種類があるのです。

 たとえば、荒野に近い場所。ここでは、まだ何種類かの植物が見られます。コケなども生えていたりします。それに伴って、人間以外の動物も生息しています。

 そこから、もっと水分の失われた場所。土質は、サラサラとしていて、土ではなく完全に“砂”と言えるでしょう。こんな場所でも、地面を少し掘れば、湿った砂が出てきます。

 さらに、乾燥が進んだ土地。これが、世間一般の人々がイメージしている“砂漠”の姿でしょう。ここでは、ほとんどの生き物が生きてはいけません。植物といえばサボテンばかり。あとは、わずかな虫やサソリなどが生息しているのみ。


 けれども、それも魔王の誕生後、変わってしまいました。

 魔王が世界に放った無数の魔物の内、何種類かは、この砂漠という過酷な環境にも耐えることができたのです。


         *


 砂漠を渡る準備を終えた一行は、このデザートローズで1泊しました。

 娯楽施設など何もない街でしたが、それでも酒場くらいはあります。冒険者というのは、酒場が大好きなものなのです。そう、昔から決まっています。


 これまで乗ってきた馬車と馬は、この街で預かってもらうことにしました。また、帰り道で使うためです。もちろん、ここまで生きて戻って来られれば、の話ですけど。

 代わりに、ラクダを借り受けます。もちろん、そのどちらにもお金がかかります。世の中、何をするにもお金が必要なのです。でも、そうして世界は回っているのです。

 商人が危険な旅をして商品を流通させて、お金を稼ぐ。傭兵たちはそれを警護して、報酬をもらう。もちろん、その旅の途中でも、いろいろと経費がかかります。そうして、旅の道中で訪れた街々でもお金を落としていく。こうして、お金というのは血液のように世界を駆け巡っているのです。


         *


 旅の一行は、元気に1歩目を踏み出しました。

 砂漠とはいっても、この辺りはまだ荒野に近い状態です。この後、段々と土地が砂化していくのです。


 基本的に荷物はラクダに乗せて運びます。

 ラクダは結構な力持ちなので、かなりの重さの荷を運ぶことができますが、それにも限界があります。あまり欲張ることはできません。なるべくかさばらず、砂漠の向こう側で貴重な品を選ぶ必要があります。

 もちろん、その辺りは慣れたもの。この商人の一行は、これまでにも何度も砂漠越えを成功させています。今回も、重さはあまりなく、高い値で売れる芸術品を主に運んでいきます。


 他にも水や食料も一緒に運ばなければなりません。

 ただし、ここはアカサタが住んでいたのとは別の世界。水に関しては、それほど心配する必要はありません。ちょうど、勇者アカサタがやっています。ちょっと見てみましょう。


「こうして、水を補給すればいいんじゃね?」

 そう言って、勇者アカサタは、ある魔法を試してみます。


「ビショ!」


 そうして、アカサタは指先から水鉄砲を発射しました。

 ところが、全然勢いがありません。いつもならば、勢いよく敵を攻撃するはずの水流が、チョボチョボとしか出てきません。

「ならば、今度は…」


「バシャーン!」


 そう叫んで、水の魔法を発動したのですが、いつもならばバケツ1杯は落ちてくる水の固まりが、バケツの底くらいしか落ちてきません。

「アレ~?」

 勇者アカサタは、首をひねりました。

 どうやら魔法は効果が薄いようです。


 そこで、遠くから見ていた1人の男がラクダを引き連れてやって来ます。

「ハッハッハ。そりゃ、そうだよ。この辺は、乾燥地帯だからね」

 そう、傭兵グループの1人である魔法使いが笑って言いました。

「乾燥地帯だと、威力が落ちる?」と、勇者アカサタ。

「そりゃ、そうさ。水の魔法は、空気中の水分を水に変えて攻撃する技だからね。湿度が低けりゃ、それだけ威力も落ちるってもんさ」

「じゃあ、完全に乾燥してしまったら、魔法が発動しなくなる?」

「ま、そういうことになるな。実際には、湿度0だなんて状態は、ほとんど存在しないがね」


 水の魔法は、空気中の水分を利用する魔法。

 なので、理論上、湿度0の土地では、魔法が発動しなくなってしまいます。そうでなくとも、湿度の低い土地では、このように極端に威力が弱まってしまうのでした。


 その時でした。大地が急に揺れ、砂漠の一角がゴワゴワと盛り上がってくるのが、誰の目にも一目瞭然でわかりました。

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