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魔法のベッド

 その日の夜、勇者アカサタは、街の宿屋に宿泊していました。

 一晩、銅貨20枚の宿屋です。


 部屋の中で、アカサタは1人でブツブツ呟いています。

「クッソ!どうなってやがるんだ!さては、あの神の野郎、このオレ様を騙しやがったな!いきなり、敵をボコボコにできるんじゃなかったのかよ!世界最高の能力って、なんだよ!」

 ここで、アカサタは考えます。神が与えてくれた能力は、自分が考えていたようなモノではないのかも知れない、と。戦闘に特化した能力ではなく、もっと別のモノなのでは?

「まさか…早逃げの能力、とかじゃねえよな?どんなピンチからも、即座に逃げ出せる能力とか。嫌だぜ、そんなの。しかも、それで世界最高か?魔王を倒せたりするもんなのか?ちょっと、おかしくないか?」

 そんな風に考えていると、また頭が痛くなってきました。コボルトに殴られた時にできた、たんこぶのせいです。

「アイテテテテテ!チクショー!また痛みやがる!」

 アカサタが痛みで叫び声を上げると、隣の部屋から壁をドンッ!と叩く音が聞こえました。

「うるせえ!眠れねえぞ!静かにしろ!!」

 壁越しに隣の宿泊客が、そう叫ぶのが聞こえました。

 仕方がないので、アカサタは毛布をかぶって寝ることにしました。

「チクショー、こんなコトなら家で静かに暮らしてればよかった。いてぇよ、いてぇよ、おうちに帰りてぇよ~。助けてくれよ、かあちゃん…」

 毛布にくるまったまま、小さな声でそう呟くアカサタなのでありました。


         *


 翌日。

 目が覚めると、傷はスッカリよくなっていました。

「お?どうなってんだ?あんなに痛んだ頭が、全く痛くなくなってるぞ。腹の傷も治ってるし」

 ここで、アカサタは考えます。

「まさか…神が与えてくれた能力って、超回復力か?どんな傷も一晩寝れば、治るってか?」

 さらに考えを進めるアカサタ。

「それにしちゃ、おかしいよな。回復するなら、戦闘中にしてもらわねえと。でないと、強敵と出会った時にどうすんだ?その場で、布団を敷いてオネンネでもしろって?」

 確かに、その通りでした。神様がアカサタに与えてくれた能力は、超回復力なんかではありません。それどころか、これは普通のコトだったのです。

 誰でも、この世界では、ベッドで一晩寝れば全ての傷が癒されるようにできているのです。魔法のベッドみたいなものです。不思議な話ですけど、そういう風にできているのだから、仕方がありません。これが、現実なのです。


 この後、アカサタも、そのコトをすぐに知ります。

 街の人に話を聞けば、すぐに教えてもらえました。最初から、そうすればよかったんですけどね。人の話も聞かずに、街の外に飛び出していっちゃったりするから、痛い目に遭うのです。


 それ以外にも、街の人たちは、いろいろと有益な情報を教えてくれました。

 たとえば…

「敵との戦闘を重ねることによって、ちょっとずつ能力が上がっていくよ」

「敵を倒せば、お金がもらえるぞ」

「稼いだ金で、より強い武器や防具を買えば、戦闘が楽になるらしい」

「1人で戦うのは大変だから、最初は仲間を見つけて一緒に戦った方がいいよ」

「戦闘で金が稼げないような奴は、マジメに働いて地道に稼ぐしかないな」

 などといった情報です。


 アカサタは、マジメに働くだなんて絶対に嫌だったので、その選択肢だけは最初に除外されました。

「働くなんてメンドクセェ!死んでもやらねぇ!!それだったら、化け物と戦って討ち死にした方がマシだ!!」

 こんな調子です。やれやれ…ですね。

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