パールホワイト・オイスターの悩み
大都会ヒルマンの真ん中で、パールホワイト・オイスターは考えていました。
「このままでは、私の人生はおしまいだわ…」と。
女性ハープ奏者であるパールホワイト・オイスターは、この大都会ヒルマンの音楽ホールで、時々、演奏会などを開かせてもらっていました。が、客の入りは、かんばしくありません。
もちろん、その出演料だけで生活していけるわけもなく、仕方がなく夜の酒場などでハープの演奏をしてお金を稼ぐのです。
正直、そのような場所で、まともな演奏などできるはずもありません。音楽を理解できる感性を持った人も、ほとんどいません。やって来るのは、街の労働者や旅の冒険者ばかり。彼らにとってみれば、楽器の演奏などどうでもよいのです。ただ、ちょっとばかり見栄えのいい若い女性がそこに座ってさえいれば、それだけで。
人々は音楽になど興味はないのです。日々の労働や戦いに忙しく、彼らの疲れを癒すのは音楽などではなく、お酒やギャンブルでした。
ハープの演奏だけではなく、お客さんにお酒を注いで回るような仕事もさせられました。
「そういうのも、サービスの一環だから。サービス精神がない人は、お客さんに喜んではもらえないよ」
酒場の主人は、そんな風に語ります。
そんな時、パールホワイト・オイスターは、こう思うのです。
「このような人たちも含めて、感動させられるような曲を奏でられるようにならなければ!音楽以外のサービスなどしなくても理解されるようにならなければいけない!私は、まだその領域にまで達していない!」と。
それと同時に、こんな風にも考えます。
「この街は大きいし、人も大勢住んでいる。ただ、私には合っていない。私に合っているのは、もっとこぢんまりとしていても、音楽に関心のある人々の住んでいる街なのだわ」
そうして、まだ見ぬ理想の街の姿を空想しては楽しむのでした。
それから、このように呟きます。
「旅に出たい。まだ見ぬ世界を旅して歩きたい。そうして、もっといろんな人に、私の演奏を聞いてもらいたい。きっと、そこには私の才能を理解してくれる人もいるはず」
ただ、それには1つの問題がありました。
「外の世界は、魔物がウヨウヨしている。知らない人と一緒に旅するのも恐い。誰か私を連れ出してくれないかしら?私の音楽を理解してくれて、私のコトを守ってくれて、一緒に旅してくれる人。そんな理想の人が現われたりしないかしら?」
毎日のように、そんな風に考えながら、それでも何もできないままなのです。彼女にできることといったら、ただハープの演奏をすることだけなのですから…
パールホワイト・オイスターがこの街を飛び出し、実際に旅に出るまでには、もうしばらくの時を必要とします。




