危険をおかしてまで、商人たちが旅する理由
その後、数日間、勇者アカサタと女勇者ハマヤラは、大都会ヒルマンで過ごしました。
そうして、ある晩、酒場で飲んでいると、傭兵のリーダーグレイが声をかけてきました。
「明後日、出発だ。明日は充分に体を休めて、旅に備えておけ」
商人たちとの旅は、こういう仕事がら、街での滞在期間が明確に決められていません。
小さな街であれば1泊するだけですが、このような大きな街での滞在となると、なかなか先の予定が組めません。
取り引きが上手くいけば、早めに街を去るコトになりますし、そうでなければ滞在期間は長引きます。あるいはそれとは逆に、思っていたよりも商品の売れ行きがよくて、考えていたよりも長く宿泊する場合もあります。
なので、このように酒場などの集合場所を決めておいて、リーダーと頻繁に連絡を取り合うコトが重要になってくるのです。ただし、それも、余程の緊急時でなければ、1日に1度も会話を交わしておけば大丈夫です。
「次は、どこを目指すんですか?」と、女勇者ハマヤラが尋ねます。
「このまま、街道を西に進む。すると、いくつか街を抜けた先に、デザートローズという街に到着する。そこから先は砂漠越えだな。馬車は置いていき、ラクダに乗り換える。ラクダに乗れない者は徒歩だ」
「砂漠か~、なんだか大変そうだな」
勇者アカサタのその言葉に、傭兵のリーダーが答えます。
「大変だぞ。しかも、砂漠は強敵も多い。そこから先が、オレたちの力の本領発揮ってわけだな」
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傭兵のリーダーグレイの言葉は、ほんとうでした。
砂漠地帯には、魔王が特別に強力な魔物を何種類も放っているのです。魔物の出現以来、砂漠越えは以前にも増して難しくなりました。並大抵の困難ではありません。
代わりに、商品の価格も跳ね上がります。
旅を成功させ、砂漠のこちら側では採れないような鉱石などを持ち帰るコトができれば、大儲けです。逆に、砂漠の向こう側に存在しないような道具や芸術品などを運べば、莫大な利益になります。
商人たちが大きなリスクを負い、大勢の傭兵を雇って高い報酬を払ってまで旅をするのには、このような理由があったのです。
なんにしても、そのおかげで冒険者たちも生きていくコトができるのです。
また、無理をしてまで砂漠を越え、強敵を倒すコトで、レベルも上がっていきます。強力な敵を討ち倒すには、より強力な武器や防具を必要とします。魔法の研究も進むでしょう。
“敵と戦い、人々は能力を上げ続ける。世界は、より高い文明を築いていく”そういう魔王の思惑通りだともいえるのです。