ハープ奏者パールホワイト・オイスター
音楽ホールの中へと入っていった勇者アカサタと女勇者ハマヤラ。
大都市の音楽ホールだというのに、人の入りはあまりよくありません。客席には、パラパラとまばらに人が座っているだけ。
「今どき、ハープの演奏なんてな…」
「おもしろいモノや楽しいコトが他にも増えてきているっていうのに」
「ま、でも、どんなものか聞いてやろうぜ」
お客さんの間から、そんな声が聞こえてきます。
女勇者ハマヤラも、小声で、こんな風に話しかけてきます。
「なんだか雰囲気が悪いわね…」
勇者アカサタは、こう答えます。
「大都市ってのは、こういうものなんだろう。芸術なんて、みんな関心がないものなのさ」
「みんな、忙しそうだものね。忙しくなってしまうと、人の心もすさんでしまう」
そうです。そうなのです。ここは大都会。それゆえに、人々は自分のコトで精一杯。音楽に耳を傾けたり、ゆっくりと絵画を鑑賞したりするゆとりなど持ち合わせてはいません。
絵に興味があるのは、商人ばかり。「いかに、高額で取引できるか?どのくらい寝かせておけば、どのくらい利益になるのか?」そういったコトばかりなのです。
*
そうこうしている内に、パールホワイト・オイスターの演奏が始まりました。
純白の衣装に身を包んだ、女性ハープ奏者です。その肌は、真珠のようなクリーム色をしています。詩人クリアクリスタル・クリスティーナとは、また違った美しさです。
純白の衣装とクリーム色の肌が対比を成して、その美しさを引き立てます。
最初は、春の景色を思わせるような明るい曲です。暖かくさわやかな風が、薄緑色の草原を駆け抜けていくようなイメージ。
2番目の曲は、ポンポンと踊り出したくなってきてしまう曲。頭の中にウサギやキツネが飛び跳ねているシーンが浮かんできます。
その後も、次々と演奏は続いていきます。繊細なハープの調べの中に、激しさをも含ませた曲。悲しみをたたえ、人々の涙を誘う曲。
その間、勇者アカサタは、どのような反応を見せているのでしょう?
…と思ったら、スヤスヤと眠ってしまっていました。ま、旅の疲れが溜まっていたのでしょう。仕方がないですね。イビキをかいていないだけも、よしとしてあげましょう。
*
こうして、最後の曲まで演奏が終わりました。
客席からは、人数は少ないものの、熱い拍手が送られています。
「いや~!思ってたよりもよかったな~」
「心が洗われるようだった」
「たまには、こういうのもいいものだな。もうちょっと芸術にも関心を持ってみるか」
こんな風に、お客さんの反応も上々のようです。
そんな中、あらん限りの力で拍手し、熱烈な声援を送っている人物が1人います。
「ブラ~ボ~!ブラ~ボ~!すっばらしい!!なんて素敵な演奏なんだ!!」
勇者アカサタです。さっきまでスヤスヤと寝ていたはずなのに、おかしいですね~
アカサタは、サッと客席から跳ね出すと、演奏者であるパールホワイト・オイスターの目の前まで近づきました。
「素晴らしい!いや~、まったくもって素晴らしい演奏でした」
それに対して、女性ハープ奏者は、こう答えます。
「あなた、私の演奏を聞きながら、客席で眠っていたでしょ?」
そんな言葉では、勇者アカサタはひるみません。間髪入れずに答えます。
「それほど素晴らしい演奏だったということですよ!世界中に楽器の演奏者は数いれど、その奏でる音楽で夢の世界へと誘える奏者など、そうはいません」
「フ~ン」と、無表情で答えたパールホワイト・オイスターでしたが、内心、悪い気はしていません。それどころか、ちょっぴり嬉しくなってさえいました。
「ところで、お姉さん。1つ質問があるのですが」と、勇者アカサタ。
「なんでしょうか?」
「ハープ奏者というのは、女性の演奏者の方が多い?やはり、男性は不利?」
「そうねえ。確かに、女性の方が圧倒的に多いかも。でも、男性の奏者もいるわよ。ハープは弾くのに力が必要ですからね。腕力のある男性の方が有利な部分もあると思うんだけど」
ここで、勇者アカサタは、何事かを考えるような仕草をしてから、こう言いました。
「ウ~ム。やっぱり…」
「何がやっぱり?」
「いや、やっぱり男だとナニが邪魔になるんだろうなと思って…」
「ナニ?」
「ナニっていうとアレですよ!アレ!」
「ナニがアレ?あっ!」
ここで、パールホワイト・オイスターも、気がついたようです。顔を真っ赤にして恥ずかしがっています。
「何、バカなコト言ってんのよ!さあ、さっさと行くわよ!」
女勇者ハマヤラに、ポカリと頭を殴られる勇者アカサタ。
「どうも、すみませんでした。せっかくの演奏の余韻を台無しにしちゃって」
ハマヤラは、そう言いながら勇者アカサタを会場の外へと引きずり出していきました。
後に残された、女性ハープ奏者パールホワイト・オイスターは、1人こんな風に呟くのでした。
「まったく変な人。でも、何だか印象に残る人だったわね…」
これが、勇者アカサタと、パールホワイト・オイスターの初めての出会いでありました。




