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街道を進む

 さて、芸術の街ラ・ムーを出発した商人と傭兵の一行は、大きな街道を西へ西へと進んでいきます。

 この辺りは、いたって平和なもの。道幅も広く、道もきれいに整備されているので、馬車の揺れもあまりに気になりません。


 現われる敵といっても、大したことはありません。コボルトやゴブリン、オークといった程度。どれも人型の魔物で、武器を手にしたり防具を身につけたりするくらいの知能はありますが、戦闘能力自体はあまり高くはありません。

 せいぜい、手にした剣や棍棒で殴ってきたり、弓矢を扱うくらいです。魔法を使ってきたりはしません。いえ、正確に言えば、魔法を使用できる者もいるらしいのですが、それはかなり高度な知性を備えた者だけ。どうやら、この辺りには住んでいないようです。


 このくらいの敵ならば、ちょっと経験を積んだ冒険者ならば、雑作もなく相手をしてしまいます。もちろん、何の戦闘経験も持たない一般人や商人からしてみれば、強敵に違いないでしょうが…

 いずれにしても、勇者アカサタが加わった傭兵グループは、かなりの腕前を備えていました。コボルトやゴブリン程度ならば、1人で何体もの敵と渡り合える者たちばかりです。彼らが雇われた本来の目的は、もっと強敵に出会った時に対抗する為です。


         *


 コトコトと軽く小刻みに揺れる馬車の中で、傭兵のリーダーが口を開きました。

「なあ、アカサタよ。お前さんは、こういう旅、初めてだったよな?」

 勇者アカサタは、傭兵のリーダーであるグレイと呼ばれる人物と同じ馬車に乗り合わせていました。

 商人と傭兵のグループ、総勢60人を越える旅の一団が、15台以上の馬車にわかれて乗りこんでいます。馬車には幌がついていて、少々の雨風はしのげるようになっています。それでも、どうしようもない場合には魔法で防御力を増強するコトもありました。

「はい。街の近くでの戦闘は、かなりこなしましたけど。日帰りだとか、野営したりだとか。けど、こういう長旅は始めてっす!」

「そうか。何事にも初めてはあるよな…」

 傭兵のリーダーであるグレイは、そう言うと、何事かを考えるかのように、しばらくの間、沈黙しました。

 それから、次に発したのは、このようなセリフでした。

「オレにもあったさ。初めての経験が。それも、苦い経験がな…」

「エロい経験っすか?」

 即座にツッコミが入ります。

「ちが~う!!そういう話も嫌いではないが、今回はそうではない。聞いてくれるか?」

 こうして、グレイは、昔の話を始めました。彼が、子供の頃の話です。


         *


「オレが、小さかった頃はさ…まだ魔物なんて、そんなにいはしなかったんだ。それで、親父がな…オレの父親が、魔物退治なんて始めたわけよ。その頃は、うちも貧しくてな。世の中も不景気で、仕事なんてありゃしねえ。仕方なくよ。仕方なく、魔物狩りに参加した」

「強かったんっすか?お父さん?」と、勇者アカサタが尋ねます。

「いや~、何の経験もなしよ。せいぜい、山に入って木を切ったりだとか、畑を耕して農作物を育てたりだとか、そんなもんよ。敵と戦うなんて経験ありゃしねえ」

「じゃあ、やられちまったんっすか?魔物に?」

「いや、そん時はまだ大丈夫だった。周りの人間達も、見よう見まねでな。せいぜい、相手にしたコトがあるといっても、イノシシだとかの野生動物程度。クマを見かけたことのある奴がいたくらいかな?」

「フムフム」と、アカサタが相づちを入れます。

「で、しばらくの間は、それで上手くいってたのよ。収入だって、増えた。正直、儲かったよ。魔物退治って仕事はな」

「じゃあ、万々歳っすね」

「まあな。ま、それでオレも成人して、跡を継ぐっつーか…仲間に加わったわけよ。ところが、その最初の戦闘で、ビビッちまってな。足が全然動かない。ゴブリンだったかオークだったか、今にして思えば大した奴じゃね~。そんな敵に殺されかけた」

「でも、生きてる」

「そう。でも、生きてるんだ。親父が守ってくれたわけよ。自分の身を挺して。だから、オレは命がある。今でも、こうしてピンピンしてるってわけさ。おかげで、オレも成長できたよ。あの時の苦い経験があったから…」

「で、今では、傭兵のリーダー?」

「そう。オレも、それなりに腕を買われるようになった。こうして、まともな収入にありつけてる。ただ、常に命の危険は伴う。お前も、大事にしろよ!命だけはな!」

「はい!わかったっす!」

 ここにも1人、魔物によって親を失った者がいたのです。でも、同時に、魔物によって命を救われたとも言えます。なぜなら、魔物退治という職がなければ、あのまま一家は貧乏のまま死滅していたか、離散していたかも知れないのですから…

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