人集めワヲン
人集めワヲンというのがいます。
人買いでもなければ、人さらいでもありません。人集めです。
こんな世の中ですから、魔物に親を殺されて、孤児になってしまう子供も多いのです。そうして、家もなく食べる物もなく、そのまま浮浪児となってしまう子供もありました。
国によっては、そういった浮浪児を集めて、孤児院のような場所に保護する政策をとっている場合もあります。けれども、多くの国や街では、そこまで手が回らずに、放置されていました。
それらの子供たちを教会が面倒を見るコトもあります。しかし、それにも限界がありました。
そうして、そこからあぶれた浮浪児たちは、街のあちこちに勝手に住みついて、暮らしているのです。たとえば、建設中のまま放置された建物だとか、誰も住まなくなってしまった空き家だとか。場合によっては、橋の下だとかに。
人集めワヲンは、そういった子供たちの前に現われては、こう語りかけるのです。
「一緒に来るかい?」
うん!と同意した子供は連れていき、いいやと首を横に振った子供は置いていきます。決して強制はしません。あくまで、本人の自由意志にまかせるのです。
子供とはいえ、そこは1人の人間。家やロクな食べ物などなくとも、自由を愛する者もありましょう。ワヲンは、そのような自由を尊重していました。無理矢理に連れ帰ったところで、よい結果には結びつきません。どうせ、不幸になるだけです。
鳥は鳥のまま、大空を自由に飛び回り続けた方が幸せな場合もあるのです。逆に、鳥かごの中で暮らす方が幸せな者もありましょう。ワヲンが探しているのは、そういった子供でした。
さて、連れ帰った子供たちは、その後、どうなるのでしょう?
1人の子供の例を見てみましょう。その子は、数年間、剣の修業をして、立派な剣士となりました。そうして、今では国家お抱えの騎士となり、国王を守る任務についています。
別の子供の例もあります。ある女の子は、ワヲンに拾われてからずっと、魔法の勉強に没頭していました。そうして、大きな街に1軒のお店を持つことができました。薬草を売るお店です。
けれども、こういった子供の数は、そう多くはありません。そのほとんどは、行方不明のままなのです。一体、どこで何をしているのでしょうか?
それは、この段階では語れません。ただ1つ言えるのは、子供たちは生きているというコトだけです。立派に成長し、元気に生きていて、この世界のどこかで活躍している。それだけは、確かなのです。