時は来たり
アカサタが向ったのは、“貧民街の帝王”と呼ばれるダックスワイズのもとでした。
「ダックスワイズ。あなたのお兄さんが大変なのよ。あなたの力で助けてあげてちょうだい」
母親にそう言われて、ダックスワイズは腰を上げます。
「そうか。ついに、時が来たか。動くべき時が…」
そうして、ダックスワイズは、極貧時代の間に築き上げたネットワークを使い、貧しくはあるけれども優秀な人材を、次から次へとアベスデの元へと送り込んでいきます。
アベスデの方も、素直にその好意を受け入れました。
これにより、これまであまりの人材不足から傾きかけていた会社が、そこから急激なスピードで立ち直っていきます。
なにしろ、それまでは、その日に食べる食料にもこと欠くような生活を送ってきた人々です。ただ、寝る所と食べる物を与えてもらえるだけでも充分でした。それに加えて、まともに給料までもらえるのです。社長であるアベスデに負けじ劣らず、死にもの狂いになって働きます。
初めは勝手のわからなかった新入社員たち。けれども、すぐに仕事を覚え、メキメキと成長していきます。
「せっかく手に入れた好待遇!決して手放してなるものか!」と、懸命に働き続けるのです。
もちろん、アベスデの方も、そんな人々に対して、それ相応の待遇を用意します。
貧民街出身の卑しい身分であることなどおかまいなし。他の社員たちと同じように、まともな給料を支払い、福利厚生も充実させました。
さらには、能力に応じて、それにふさわしいボーナスまで与えるのです。これは、この時代の社会においては、非常に珍しいことでありました。
おかげで、新しく入ってきた社員たちは、さらにバリバリと身を粉にするように仕事に専念し、アベスデの経営する会社は、世界一の企業へと成長していくのでした。




