魔王ダックスワイズ
この世界のどこかに、1つの城がありました。
そこには、魔王が住んでいます。魔王の名は、ダックスワイズ。
魔王は、退屈していました。いつもいつも退屈で退屈でたまりませんでした。
ですから、数多くの魔物を生み出したり、新しい魔法を開発したりして、時間を潰すのです。
魔王は、絶大な能力を持ち合わせておりましたので、欲しい物は大抵手に入れることができます。人でも、お金でも、物でも、何でも。手に入らない物は、自分で作り出せばいいのです。
逆に、相手の方からすり寄ってくることもありました。頭を下げて「どうか、配下の者として加えてください」と頼んでくる者も大勢いました。魔王ダックスワイズは、それを拒みませんでした。魔王のモットーは“来る者は拒まず、去る者は追わず”だったからです。
そんな魔王のことですから、世界を手に入れたがるのは当然だと言えるでしょう。
けれども、実際には、魔王ダックスワイズは、そんなモノには興味がありませんでした。
「世界を手に入れて何になる?世界の支配者などになって、どうなるというのだ?それで、この退屈さが失われるとでもいうのだろうか?」
そんなわけがない。その先にあるのは、さらなる退屈さだけだ。それを魔王はよく理解していました。
それでも、世界が平和過ぎるのは好きではありませんでした。
「世界は荒れているからこそ、おもしろい!その方が、世の中は楽しくなる!」
そう宣言し、この世界に無数の魔物たちを放ったのです。
そうして、事実、その通りになりました。最初は、大勢の人々が傷ついたり亡くなったりしましたが、やがて人間たちは、その過酷な環境にも適応してしまいました。魔物を倒す術を身につけ、街を高い壁や魔力で守れるようになりました。
それを遠くから眺めていた魔王は、とても喜びました。感激さえしました。
「おもしろい!おもしろいぞ!人というのは、環境に適応し、それに応じて成長していくものなのか!」
こうして、魔王ダックスワイズは、自らの生きがいを発見したのです。
世界を滅ぼすわけでもなく、支配するわけでもなく。徐々に徐々に強力な魔物を、この世に解放していきました。人々がそれに対抗できるようになれば、さらに強力な魔物を。そうでなければ、対抗できるようになるまで、しばらくの時を待ちます。
その間に、さらなる魔物やより強力な魔法を開発しながら、過ごすのです。同時に、より多くの者たちが魔王の配下に加わっていきました。
こうして、何年も何十年も、このようなコトを繰り返しながら生きていきました。
それと共に、世界は急激なスピードで進歩を遂げていったのです。




