アカサタの英才教育
母親になったアカサタは、産まれてきた自分の子に“アベスデ”と名づけました。
かつての世界で、賢者と呼ばれ、数々の大魔法を身につけた者の名です。アカサタは、その能力と記憶を引き継ぎ、賢者アベスデと一緒に過ごした頃のコトも忘れずにいたのでした。それは、時間にすれば、もう何百年も昔の話なのに。
「さあ、アベスデ。お勉強の時間ですよ~」
バブ~!と、返事をする赤ん坊のアベスデ。
言葉もまともに喋れない年から、アカサタは英才教育をほどこしているのです。
「アベスデ。お前は将来、この世界を背負って立つ人間になるんだから、今の内から一生懸命勉強しないといけませんよ~」と、アカサタは語りかけます。
意味もわからず、「バブバブ~」と返事をする赤ん坊のアベスデ。
「そう、いい子ね。それじゃあ、お母さんがご本を読んであげましょうね~」
すっかりお母さん気分のアカサタです。
「むかしむかし、あるところに1匹のキツネが住んでいました。キツネは…」と、子供向けの童話を読み始めます。
*
むかしむかし、あるところに1匹のキツネが住んでいました。
キツネは、まわりの動物たちをだましては、食べ物をみんな、ひとりじめしてしまいます。
おかげで、キツネの食料庫には、1年中、食べる物がいっぱいです。山のように積まれています。
その代わりに、ほかの動物たちは、いつも食べ物に困り、おなかをすかせてばかりいました。
「腹が減ったよ~、なにかくれよ~」と、クマがいいました。
でも、キツネは知らんぷり。わずかなパンのひと切れも、わけてはあげません。
「なんで、こんなコトになるんだ?オレたち、いっしょうけんめいに働いているよな?」と、サルもいいました。
けれども、キツネは、ブドウのひと粒すら差しだそうとはしません。
「ウウ~、ひもじいよ~。どこかに食べる物は落ちてないかな~?」と、ウサギもいいます。
それでも、キツネは、見て見ぬフリ。
「みんなに食べ物をわけてしまって、オイラの食べる分がなくなったら大変だからな。心を鬼にして、ここは無視しよう!」
キツネは、そう決心します。
それからしばらくして…
ついにキツネの悪行がバレてしまいます。
「オイ!キツネ!てめえ、1人で食料をためこんでやがるじゃねえか!」と、クマが怒ります。
「なんて、ひきょうなヤツなんだ。お前なんて、もう友達でもなんでもない!」と、サルもプリプリです。
「ひとりじめなんてズルイよ~」とウサギもあきれかえります。
こうして、キツネは、みんなからギッタンギッタンにされて、食べ物は全部うばい取られてしまいましたとさ。
めでたし、めでたし♪
*
「さあ、どうだった、アベスデ?」と、母親のアカサタは語りかけますが、赤ん坊にわかるわずもありません。
それでも、「バブブ~」と、難しい顔をすると、右手を天井に向けて高く突き出しました。
「そうだよね、いけないよね。食べ物は、みんなでわけないとね~」
このように、アカサタは、物心つく前から、熱心にアベスデの教育に取り組んでいたのでした。




