振り返る勇者アカサタ
勇者アカサタは、これまでの出来事を振り返っていました。
家でゴロゴロしながら暮らしていたのは、もう遠い昔。まるで前世の記憶のようです。というか、転生して、この世界にやって来たので、実際に前世の記憶なんですけどね。
「あの頃は、無駄な人生を歩んでしまっていたな~!それに比べて、今はどうだ?なんという充実した人生なのだろう!」
宿屋のベッドの上、1人でそんな風に語る勇者アカサタ。
考えてみると、アカサタはニートであったとはいえ、潜在的には様々な能力を有していたわけです。ただ、働くのが嫌だというだけで。
「もう絶対に働かない!一生働くもんか!」
アカサタにそう決心させたのには、1つの理由がありました。それは、世界の有り様です。
世界中には、一生懸命に働いている人々が大勢いました。けれども、それらの人は、ちっとも報われません。アカサタの身の回りにも、そういった人が何人もいました。
父親も母親も友人も親戚も、みんなみんな、身を粉にして働いていましたが、全然お金になりません。それどころか、体を壊してしまったり、精神的に病んでしまったり、どこかおかしくなっていく人たちばかりです。
平日は、嫌な仕事に精を出し、家に帰ってきてからは、くだらないテレビ番組などを眺めて過ごします。休みの日も似たようなもの。いつも、カリカリしており、どうでもいい細かいコトに腹を立てては、当たり散らします。
アカサタは、そういう人間にだけはなりたくなかったのです。
そうして、こう決心したのでした。
「単純作業なんかに、この貴重な命を削られてなるものか!それだったら、残りの人生、全て家の中で暮らし、やりたいコトをやりたいだけ好き勝手やって暮らす!それで、死ぬなら本望だ!」
ある意味、感心してしまうほどの根性と決意の強さです。
*
アカサタは、宿屋のベッドの上で、さらに考えを巡らせます。
「神が与えてくれた最高の能力とは、一体、何だったのだろうか?」と。
どうやら、敵から逃げおおせる能力ではなかったようだ。おそらく、剣や魔法の能力でもなかろう。それだったら、最初の戦闘からして負けるはずはなかった。バリバリと敵を薙ぎ倒せたはず。
もしかしたら、エロパワーなのか?エロに絡めれば、何でもできるもんな~!エロいコトを考えている時は、成長も早いし。
あるいは、人と協力する能力とか?何だかんだ言いつつも、オレ、結構人気者だものな。これまで自分でも知らなかったが、どうやら口の上手さだけは天下一品らしい。これからは、この能力をさらに生かした人生を歩んでみるか。
などと考えています。
「とにかくマジメに一生懸命働く人生だけは絶対に歩まんぞ~!!絶対に!絶対にだ~!!」
あらためて決意を固め、宿屋のベッドの上で、そう叫ぶ勇者アカサタ。
その瞬間、隣の部屋から怒鳴り声か聞こえてきました。壁をドンッ!と蹴り上げる音と同時に。
「ウルセェ~ぞ!!早く寝ろ!!」
クッソォ!いずれ、この世界でも大きな家を手に入れてやるからな。夜中にどんなに叫んでも、怒られない自分の家を!できれば、一晩中おっぱいパーティーが開けるようなデカイ家だ!
そう、新しい夢を描きながら、眠りにつく勇者アカサタなのでありました。