猫の支配する街
最強の化け猫“九尾の猫又”へと進化した猫のアカサタ。
その圧倒的な妖力で、街を支配し始めます。
さらに、化け猫討伐にやってきた妖怪バスターの夜巫女は、猫のアカサタの性的魅力にほだされて、アカサタの命令ならば何でも聞く忠実な部下となってしまっていました。
そうして、これまでとは逆に、襲ってくる妖怪ハンターたちから守ってくれる心強い味方となってくれていたのでした。
「アカサタ様。また1人、アカサタ様に仇なす除霊師を1人、片づけておきました」
ヨミコの言葉に、アカサタはこたえます。
「それは、ご苦労」
「それで、あの…今夜もその…」と、ヨミコはモジモジして、何か言いたげです。
「わかっておる。わかっておる」と、アカサタが返事をすると、ヨミコの顔がパ~ッと明るく弾けて笑顔に変わります。それほどまでに、夜の営みを楽しみにしているのでした。
*
九尾の猫又と化したアカサタは、その妖力と性技を使い、人の心をワシづかみにしていましたが、それとは別に、他の猫たちにも様々な能力を与えて楽しんでいました。
その内の1つに“人間の体を乗っ取る”というものがありました。
「ああ~あ。もう生きていても仕方がないな。いっそ死んでしまおうか…」
そんな風に思っている人間を見つけては、完全に体を支配してしまうのです。
この能力は、人間が無気力であればあるほど効果が高く、その体を乗っ取りやすくなっていきます。それとは逆に、やる気満々で生きている人間相手には効果がありません。いかな最強の化け猫であるアカサタであろうとも、心に全く隙のない人間の体を奪うのは、ほとんど不可能に近い行為でした。
それでも、人の心というのは弱いもの。常に完全な人間などいるはずもありません。
恋に破れたり、仕事をクビになったり、受験に失敗したり。人生には波乱がつきものです。そのような危機に直面して、全く心が揺らがないわけがないのです。
そのような心の隙を見つけては、次々と人間に憑依していく街の猫たち。
猫に体を乗っ取られてしまった人間は、まず耳がピョンッと尖ってしまいます。それから、ほっぺたに何本もの細くて長いヒゲがはえるのでした。
「ニャオ~ン」と、かわいらしく鳴く猫人間。人間になっても、ついつい口癖のように、このような声がもれてしまうのです。
「ニャンとも暖かい季節になって来ましたニャ~」
「ほんとに。そういえば、角のさかニャ屋さんは、いつも仕入れが新鮮で、おいしいですよ」
「それは、よい情報を聞きました。さっそく、買い物に行ってみニャければ」
などという会話が、街中のあちこちで聞かれるようになってきます。
こうして、この街は、無数の猫たちによって支配されてしまったのでした。




