変異
ある日、猫のアカサタは、自分の尻尾が2本にわかれているコトに気がつきました。
最初は、大して気にしていなかったアカサタですが、しだいにそうもいかなくなってきます。2本だった尻尾が、さらに3本に増えていたからです。
さすがのアカサタも、これには、不審さを隠せません。
「んん~?なんだ、これは?」
そう思って、近所の他の猫たちを見回しますが、別に変わった様子はありません。ただの普通の猫の尻尾です。
「おっかっしいな~?オレだけか?」
アカサタは、モヤモヤした気持ちを心の中に抱えていましたが、なにしろ原因がわからないのです。仕方がないので、またしばらくの間、そのまま過ごしました。
*
それから、数週間が経過します。
今度は、近所の猫にも変化が現われ始めました。
まずは、ヒヨ太でした。
行方不明になっていた、あのヒョロッヒョロに痩せた猫のヒヨ太です。
ヒヨ太は、お金持ちのお嬢様の部屋に上がりこみ、うまいコトやって、お嬢様の飼い猫になっていたのです。ガリガリに痩せていた体も、毎日おいしいものを食べさせてもらったおかげで、かなりふっくらしてきています。
「アカサタさん、実は最近、おかしいんですよ。ホラ、見てください」
そう言って見せてきたお尻には、2本の尻尾が。
「お前のは、まだ2本だからいいだろう。オレなんて、これだぜ」
アカサタのお尻には、3本の尻尾が…いえ、すでに4本に増えてしまっています。
「なんなんでしょうね?これ?」
「わからん。こっちが聞きたいくらいだ」
2匹は、顔を見合わせて首をひねりますが、さっぱり理由がわかりません。
そうこうしている内に、野良猫のドラ五郎や、三毛猫のミケヤンの尻尾も2本に増えてしまいます。
「なんじゃ、こりゃあああああ」
「でも、2本に増えて、便利じゃないですか?」
ドラ五郎とミケヤンも、自分の尻尾を眺めながら、感想を述べます。
「けど、2本くらいなら、まだいいが、3本にも4本にも増えちまったら、さすがに不便でしょうがない。お互いの尻尾が絡み合わないように、いつも気をつけてないといけないからな~」と、アカサタも、そろそろ不便さを感じ始めています。
*
それから、さらに時が過ぎ、近所の猫たちも次々と尻尾が増え始めます。尻尾が2本に増えた猫が珍しくなくなっていきました。
けれども、人間たちの方は、あまり不審に思ってはいないようです。尻尾2本くらいなら、そんなに奇妙にも思わなかったのでしょう。
「この街には、珍しい種類の猫がいるんだな」程度にしか思っていませんでした。
この頃になると、アカサタの尻尾は5本になってしまっています。
「オイオイ、このペースで増え続けると、どうなっちまうんだ?まさか、無限に尻尾が増殖し続けて、この星を埋め尽くしてしまうとか!?いや、その前に身動きが取れなくなって、死んでしまうか?」
アカサタが不安に思うのも無理はありません。
でも、どうしようもないのです。なにしろ、全く原因がわからないのですから。




