芸術品の価値
ある時、勇者アカサタは、伝説の画商イロハ・ラ・ムーの屋敷へとやって来ていました。
冒険の途中で手に入れた絵を鑑定してもらう為です。
「ウ~ム…残念ながら、この絵には大した価値はないな~」
イロハ・ラ・ムーにそう言われて、ガッカリのアカサタです。
「な~んだ、そっか。せっかく、高価な作品を手に入れたと思ったのにな~」
「まあまあ、絵の価値というのは人それぞれだ。アカサタ君がいい絵だと思えば、それはいい絵なんだよ」
勇者アカサタは、興味なさそうに答えます。
「いや、別にいい絵だと思ったわけじゃ…ただ、高く売れそうだな~と思っただけで」
「ハッハッハッ!それでは、いかんな。金になるとかならないとか、真の絵の価値とは、そういう部分にはない。人々にとって…もっと言えば、ある1人の人にとってかけがえのない作品であれば、それは史上最高の絵だとも言えるのだ」
「そんなもんっすかね?」
「そんなものさ」
ここで、イロハ・ラ・ムーは、ちょっと考えるような仕草をしてから、言葉を続けました。
「…とはいえ、最近は、そうでもなくなってきてはいるかな」
「どういうコトですか?」
「いやね。ここのところ、この辺りでも魔物が頻繁に出没するようになったろう?世界には、もっともっと危険な地域もたくさんある。そうすると、どうなると思うね?」
勇者アカサタは、ウ~ムと頭をひねって考えました。
「そりゃ、魔物を倒さないといけなくなる。それから、魔物を生み出している魔王も」
「だろう?すると、儲かる人がいるということだよ」
「オレたちみたいな?」
「そう。君らみたいな、冒険者だ。傭兵としての仕事も、たくさんある。そして、私らみたいな画商や商人だな」
「商人?どうして?武器を売るから?」
イロハ・ラ・ムーは、その言葉にうなずきながら答えます。
「ウム。もちろん、それもある。このような世の中だ。武器や防具を売る商人も儲かるだろう。だが、それだけではない。魔物が出没し始めてから、美術品の価格が高騰したんだよ。こういう不安定な時代には、みんな、お金とは別の物で資産を確保したがる。宝石だとか美術品だとか、そういった物でな」
「じゃあ、イロハ・ラ・ムーさんも大儲けだ!」
それに対しては、困った顔をしながら答えるイロハ・ラ・ムー。
「まあ、そうなんだが…正直、私はこのような現状が、あまり好きではない。芸術というのは、なにもお金の為だけにやっているわけではない。もっと別の崇高な思いがあればこそなのだ」
「崇高な思い?」
「そうだ。できるだけ多くの人々に気軽に芸術に触れてもらいたい。それが、私の願い」
「今は、それができていない?」
「そうだ。事実、魔物が増えてからというもの、この芸術の街ラ・ムーを訪れる観光客の数も激減した。作品の価格が高騰し、私らは儲かった。この街自体も潤った。だが、それはしょせん一部の人間達の間での取り引きによってだ。逆に、大勢の人々は以前よりも芸術から遠のいてしまった。それは、私の望むところではない」
「なるほどね~」
「ま、そういう意味でも、君には魔王討伐を達成してもらいたいと思っているよ」
「はい!がんばりま~す!」
このような話を通じて、少しずつではありますが、精神的にも成長を遂げていく勇者アカサタなのでありました。