縄張り争い
猫の姿になったのに、この世界でも楽しく過ごしているアカサタ。そんなアカサタの前に、イチャモンをつけてくる相手が現われます。
それは、近所の猫たちでした。
「ヤイヤイヤイ!おめぇさん、最近、近隣でチヤホヤされてるらしいじゃねぇか!」
ゆったりとお昼寝していた猫のアカサタに向って突然話しかけてきたのは、近所でも有名なドラ猫でした。
けれども、アカサタは全く相手にしません。
「オレ様は、この近辺を取り仕切ってる“ドラ五郎”ってもんだがよ。そのオレ様に、あいさつ1つねぇってのは、どういうこった!?」
ドラ五郎のその言葉を聞いても、アカサタは無視し続けます。ただ、ふわぁ~と大きなあくびを1つしただけでした。
「ヤイヤイヤイ!完全スルーかよ!おめぇさん、どれほど偉いってんだ?」
ドラ五郎は続けますが、アカサタの方は聞く耳持たず。
なにしろ、アカサタはその昔、無数の魔物や、魔王を相手に戦っていたコトがあるのです。アカサタ自身、魔王であった経験もあります。そんな者が、近所の猫1匹を恐れるわけがないのです。相手にするのもバカバカしいというものです。
「ドラ五郎さん、こいつ、耳が聞こえないんじゃないっすか?」
ドラ五郎の横に控えていた、1匹の三毛猫が言います。
「ちげえねぇや。コイツは、耳が悪いに決まってる。そうに違いねぇ」
ドラ五郎の言葉に、今度はアカサタも答えます。
「お前は、頭の方が悪そうだ」と、ただ一言。
それを聞いたドラ五郎、サッと頭に血が上りそうになりますが、それを我慢して答えます。
「なんだ、ちゃんと聞こえてんじゃないか。だったら、最初から返事をしろよ」
「別に、そんな義理はない。返事をするもしないも、自由だ。オレは、ただ自由に生きていきたいだけなんだ。放っておいてくれよ」と、猫のアカサタ。
「ケッ!まったく偉そうな奴だぜ。今日んとこは、このくらいで勘弁しておいてやるが、あんまり舐めた態度ばかり取ってるようだと、ただじゃおかねぇぞ!駄菓子屋のタマさんよぉ!」と、ドラ五郎。
「ただじゃおかねえぞ~」と三毛猫の方も復唱します。
そうして、2匹の猫は、その場から去って行ってしまいました。
「やれやれ、どうせ舐めるんだったら、かわいい女の子のあそこでも舐めてるさ」と、アカサタは心の中で思いましたが、口にはしませんでした。
これが、猫のアカサタとドラ猫のドラ五郎の出会いとなります。
*
それからというもの、アカサタが近所を歩いていると、他の猫たちから襲撃されることが多くなりました。
どうやら、目の敵にされたようです。
けれども、アカサタは一向に気にしません。
いかな猫に生まれ変わったとはいえ、かつて死の間際まで追い詰められるような戦いを何度もかいくぐってきた身なのです。平和ボケしている猫ごとき、何匹現われようとも相手にはなりません。
むしろ、退屈しのぎにちょうどいいくらいでした。なまった体をほぐすためのラジオ体操くらいの役にも立ちます。
そんな風にして、またしばらくの時が流れていきました。




