野良猫のひそかな楽しみ
猫のアカサタは、母猫のもとを飛び出してから、ずっと野良猫として暮らしています。
ただ、世界自体は、人間たちの暮らす普通の世界なのです。人間の世界に猫が混じって生きているだけに過ぎません。そういう意味では、猫たちが人間の住む地域におじゃましているようなものなのです。
「フニャ~」
大きなあくびを1つ。屋根の上の猫が退屈そうに口を開けます。
猫のアカサタは、家の屋根の上に寝転がって、ポカポカとしたお日様の光に当たりながら、道行く通勤サラリーマンや学生たちを眺めてのんびりとしていました。
そうして、こんな風に思うのです。
「にゃんだか…あ、いや、なんだか平和な世界だな。平和過ぎて、眠くなってくる。ま、いいか。毎日こうしてゴロゴロと寝転んで暮らしていれば、その内にこの一生もすぐに終わりを告げるだろう」
けれども、退屈嫌いのアカサタが、いつまでもそんな状態を続けられるはずがありません。すぐに、ピョンピョンと街中を歩き回り始めます。
ここは、一般庶民の住む住宅地ではありましたが、そんな街を徘徊している内に、アカサタは1つの楽しみを発見しました。
それは、家の天井裏に潜り込み、一般庶民の生活を観察するコトでした。もちろん、誰の許可も取っていません。無断で入り込んで、勝手にのぞくのです。
たとえば、こんな感じ…
ある家の天井裏に侵入すると、男子学生が一生懸命勉強をしています。受験生でしょうか?
と思っていると、途中で飽きてしまい、参考書を放り投げてしまいました。そうして、パソコンの画面に向かい始めます。インターネットでエッチなサイトに熱中したり、ゲームに興じたり。勉強している時間よりも、よっぽど長く遊んでしまいます。
女の子の部屋をのぞき見しても、似たような感じ。少女マンガを読んだり、友達と電話したりで、ちっとも勉強しようとはしません。
あるいは、こんな感じ。
ある家では、母親が息子に向って「勉強しなさい!」と叱っています。他の家庭では、父親と息子が殴り合いのケンカにまで発展しています。
倦怠期のカップルが何の会話もなく無言で、お互いに好きな作業に没頭していたり。おばあさんが、おじいさんに向って「あんただって!浮気してたくせに!」と、昔の浮気について言及している場面も見られます。
でも、なんといっても、アカサタが楽しみにしていたのは、人のエッチを眺めるコトでした。
欲求不満の奥さんが、家にやって来た訪問販売のサラリーマンを部屋に上げて、真昼の情事を楽しんだりしています。
他にも、借金取りが若い女性に、借金のカタに体を迫ったりしています。
「フ~ン…世の中、悪い奴ばっかりだな」と感心しながら、天井裏からのぞき見を続ける猫のアカサタ。
そんな風にして、しばらくの時が過ぎていきました。




