男だけの世界
ここは、男だけの世界。
科学技術の発展により、男同士で子供の作れる時代へ突入しています。
勇者アカサタは、この世界に生まれ変わり、赤ん坊からその人生を始めることとなりました。
そうして、保育園、小学校…と順調に進んでいきます。もちろん、クラスメイトは全員男性。友達も男ならば、担任の先生も、校長先生も、教頭先生も、保健室の先生も、みんなみんな男ばかりなのです。
そんな環境で長い間過ごしてきたアカサタですから、いい加減、嫌になってきていました。
「やれやれ、こんな女っ気のない世界で何年も生きていたら、頭がおかしくなっちまうぜ…」
そんな風に呟いて、ちょっとしたイタズラを考えつきました。
「そうだ!この世界の人間たちに、本物の女というモノを見せてやれ!そうしたら、奴ら、きっと女に魅力に目覚めるに違いない!」
そう言うと、アカサタは魔法を使って、女に人の姿に変化しました。前の世界で覚えていた魔法を、この世界でも自由自在に操ることができたので、この程度はお茶の子さいさいです。
もちろん、この世界にも女性の格好をしている人はいます。
けれども、それらはみんな偽物なのです。あくまで、“女性の格好をしている人”であって、“本物の女性”とは全く別の存在なのでした。
*
最初は、そんなに大した事件にはなりませんでした。似たような格好をしている人は大勢いたからです。
ところが、しだいに「アレは本物の女の子なんじゃないだろうか?」という噂が立ち始めます。
勇者アカサタは、今の自分と同じくらいの年齢の女の子に化けて、街中を歩き回ります。そうして、人目に触れ、周りの人々が騒ぎ始めると、サッと身を翻し姿を消してしまうのです。
そうやって、“本物の女の子”の話は、徐々に世界中へと伝わっていきます。まるで、都市伝説のように。
この世界でのアカサタは、小学生の頃から、そうやって人々をからかって遊んでいました。そんなに頻繁ではありませんが、月に何度か、そのようなちょっとしたイタズラをすることでストレスを解消していたのです。
「見たか!これが“女”というものだ!!」
アカサタは、心の中で誇らしげに叫びます。
そうして、本物の女性がどういうものか知らないこの世界の住民たちに、実際に女性の姿を見せて、知らしめるのでした。
*
そんな風にして数年が過ぎていきます。
アカサタも、もう高校生。年齢も15歳を越していました。
最初は単なる噂に過ぎず、半信半疑だった人々も、ここ最近は“本物の女性”の存在を信じる人が増えつつありました。街のあちこちで、女性の姿に化けたアカサタの写真や映像が撮影されるようになっていったからです。
そうして、週刊誌やテレビ番組などでも取り上げられるようになっていきます。
テレビのコメンテイターは、「実によく化けたものだ。完璧なお化粧だ!」などと褒め讃え、女性の存在そのものは否定しました。
けれども、実際に会った人たちは、口をそろえて、こう言います。
「いや~、アレは本物の女だ!本物なんだよ!かつて、この世界に存在していたという伝説の生き物“女”なんだ!見た目だけじゃない、声も臭いも、オレたちとは全然違っている!!」
それに対して、テレビのコメンテイターは、こう反論します。
「いやいや、今の時代、声を似せることなんて雑作もありませんよ。臭いなんて香水1つでどうとでも変えられます。もしも、本物の女の人がいるとしたら、捕まえて裸にしてしまえばいいんです。それが一番手っ取り早く“女の人”がいるという証明になるはずです」
こうして、伝説の“女の人”は、懸賞金をかけられて、世界中の人たちから追いかけ回されるはめになってしまいました。




