神の残した者
次に目を覚ました時、アカサタの前には1人の人物が立っていました。
誰あろう、それは、あの魔王ダックスワイズであったのです。
「どうした、アカサタよ?まさか、こんな所で倒れる気じゃないだろうな?」
「お、お前は…どうしてここに!?」
ダックスワイズは、青年の姿をしていて、広いマントで全身を覆っています。
「おもしろそうなコトをやってるな、と思ってな。さあ!一緒に楽しませてくれよ!」
そう言うと、魔王ダックスワイズは、回復魔法をかけてくれます。
おかげで、アカサタは、みるみる体力と気力が湧いてきました。
「これで条件は同等ってわけだな」
そう言って、アカサタは再び2匹の神獣に立ち向かいます。
「なぜ、あなたが!?」と、今度は詩人クリアクリスタル・クリスティーナの方が驚く番でした。
それに対して、魔王ダックスワイズは答えます。
「コイツは、このオレの人生に光を与えてくれた。それまで暗く退屈だった人生に希望を与えてくれた。おかげで随分と楽しい思いをさせてもらった。あのまま生きていたら、いつまでも不満を感じたまま、永遠に満たされぬまま、この世界をさまよい続けていたであろう。それを思えば、このくらいのコト…」
「そう。あなたも、この世界を乱した原因。それも、アカサタが現われるまでは、許容範囲内であった。それも、2人が出会って変わってしまった。この世界は許される範囲を越えて、大きく変わり過ぎてしまった。ならば、共にここで消滅しなさい」
クリアクリスタル・クリスティーナは、そうは言いましたが、この世界で最高の能力を誇る2人がタッグを組んでしまったのです。もはや、神獣ごときでは何体いようとも相手にはなりません。
勇者アカサタが神獣ンと戦い、魔王ダックスワイズは神獣アの前に立ちはだかります。
2匹の神獣は防戦一方です。そうして、防御してばかりでは無駄だと悟ったのか、今度は一転、攻撃に転じてきます。
神獣アの熱量を与える息吹での攻撃をアカサタが防ぎ、神獣ンの熱量を奪う息吹をダックスワイズが無効化します。そうして、回復の隙を与えることなく、2人は同時に連続攻撃を叩き込み、みごと2匹の敵を討ち倒したのでした。
*
その様子をジッと眺め続けていた美しき女性詩人は語ります。
「かつて、この世界には何人もの神がいた。私は、その1人である“芸術と詩の神ムーゼリカ”につかえていた」
その言葉を聞いて、アカサタは尋ねます。
「その“神”ってヤツは、どこにいるんだ?」
「いなくなってしまったわ。みんな、別の世界へと旅立っていってしまわれた。私は、1人この世界に残されて、後を見守り続ける役割を与えられたの。世界があまりにも乱れ過ぎないように、この世界の端っこで監視し続けるという役割を。詩人という姿をして」
それを聞いて、今度はダックスワイズの方が尋ねます。
「その別の世界ってのは、どうやったら行けるんだ?」
「さあ?私にはわからないわ。私に与えられた能力と知識は、そういうものではないもの」
「そうか、そいつは残念だ。もっともっと知らない世界を見ることができるかと思ったのに…」と、ダックスワイズは、さも残念そうに言いました。
「結局、あなたたちは自分の生き方を変えられない。どんなに世界を破壊しようとも、おかまいなし。自分たちが幸せなら、それでいいんだわ」
詩人クリアクリスタル・クリスティーナが、そう言うと、今度は2人が同時に答えます。
「それのどこがいけない?人は自由であるべきだろう?」と、アカサタ。
「世界なんて知ったこっちゃない。この退屈さを埋めてくれさえすれば、他はどうでもいい」と、ダックスワイズ。
クリアクリスタル・クリスティーナは、その2人の言葉を聞いて、少しの間考えてから、こう言いました。
「そう。あくまで世界の意志に逆らおうというのね。わかったわ。そうやって、どこまでもどこまでも世界をムチャクチャにしていけばいいんだわ。誰にもどうしようもないくらいにまで世界を破壊して、取り返しのつかないコトにしてしまえばいいのよ。そうなった時に気づいても、もう遅いというのに…」
さらに、こう続けます。
「けど、アとンを倒したその力。それは認めなければ。あなた方に2匹を召還する言葉を教えましょう。だって、そういう契約だもの…」
そうして、クリアクリスタル・クリスティーナは、2人に神獣を呼び出す呪文を教えると、そこから姿を消してしまいました。




