神獣との対決
神獣と呼ばれた全身を白い毛に覆われた毛むくじゃらの生き物。生まれたての子犬を巨大化させたような2匹のその生き物が、アカサタの前に立ちはだかります。
詩人クリアクリスタル・クリスティーナは静かに語ります。
「始まりを意味する“ア”と、終わりを意味する“ン”神に選ばれしこの2体が、あなたの相手をしてくれるわ」
「クリスティーナさん。あんた、魔法が使えたのか…」
アカサタは、驚いてそう呟くのが精一杯でした。
「当然よ。詩は言葉。魔法も言葉。元をただせば、その2つは同じモノ。それどころか、元々魔法というのは詩から生まれたの。詩を極めることで魔法も極められる。そういう風にできているの」
黙ったままのアカサタに対して、クリアクリスタル・クリスティーナは続けます。
「さあ、おしゃべりは、これでおしまい。そして、あなたの人生も、ここでおしまい」
美しき詩人がそう語ると、アとンと名づけられた2匹の神獣は、勇者アカサタに向ってきます。
けれども、そこはさすがアカサタ。これまで身につけてきた能力を駆使して善戦します。剣を振るい、魔法を放ち、迫り来る敵にダメージを与えます。それでも、敵の攻撃と守りを崩すことはできません。
アが突進してくれば、ンが引き。ンが攻撃してくれば、アが防御に入ります。そうやって2匹が連携し、いつまで経っても決着がつきません。どちらかが傷ついても、もう片方が回復してしまい、キリがないのです。
「いいわ。だったら、そうやっていつまでも戦っていなさい。それが、あなたに与えられた罰よ。そうして、いずれ精神力も体力も尽きてしまう時が来るでしょう。世界をムチャクチャに変えてしまったあなたにふさわしい終わり方だわ」
美しき女性詩人は、2匹の神獣と勇者アカサタの戦う様子を、離れた場所から表情1つ変えずに見守りながら、そう言いました。
何時間も何時間も戦い続け、ついに勇者アカサタは膝をつきました。
そうして、朦朧とする頭の中で考えました。
“もしかしたら、この人生は間違っていたのだろうか?あのまま部屋の中で、1人で生き続けていた方が幸せだったのではないだろうか?神によってこんな世界につれてこられるコトもなく、たった1人で部屋の中、好き勝手やって死んでいった方がよかったのではないだろうか?”と。
けれども、アカサタは、すぐにその考えを打ち消します。
“いいや、そんなコトはない。いずれにしろ、オレは自由に生きた。世界に影響を与えたか、誰にも知られず1人で部屋の中で死んでいくか、その差はあるだろう。だが、生き方自体は同じ。自分のやりたいコトをやりたいだけやれた。これに勝る幸せがあるだろうか?いいや、ありはしない!!”
それから、薄れていく意識の中で、最後に一言こう呟いたのでした。
「もう充分だ。生きるだけ生きた。ここで終わりでいい…」
そうして、アカサタは、バタリとその場に倒れてしまいました。




