終わりの日を感じつつ
神様の能力でアカサタがこの世界へと飛ばされてきてから、もう40年近くの時が流れていました。
最初は若々しかったその姿も、今では髪の毛のあちこちが白髪だらけになり、肉体の方もかなり衰えてきていました。
それでも、若い頃に冒険で鍛え、“気の力”を身につけていた分、普通の人に比べれば、よほど若さを維持している方だと言えるでしょう。
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アカサタは、毎朝の日課通り、朝刊を開くと、昨日の大魔法野球の試合結果を眺めます。
「魔王デストロイヤーズは、昨日も大差で負けか。ここのところ、どうも調子が上がらんな。これで、引き分けを挟んで、8連敗か…」
そんな風に呟きます。
最近は、インターネットの普及で、新聞を購読する人も減りつつありました。
大金持ちであるアカサタにとっては、新聞の購読料なんて微々たるものです。が、それでも、「あまり読む部分もないのに契約し続けるのももったいないので、そろそろ新聞を取るのもやめるか…」なんて思っていました。
ここのところアカサタは、自分が投資しているゲーム会社の仕事で忙しくしています。
今度、大魔法野球をゲーム化することになり、アカサタもいろいろと口を出しているのです。
大魔法野球のスタジアムは、魔法による防護ネットが張られているので、観客は安全です。しかも、防護ネットはほぼ透明に近い色をしているので、視界を遮らずに観戦できるようになっています。また、ルール上、敵の選手に直接攻撃したり、魔法をかけたりすることは禁止されています。あくまで魔法が使えるのは、バットやグローブなどの道具か、チームメイトに対してのみ。
それでも、子供がプレーするには、あまりにも危険過ぎます。子供は、なんでもマネしたがるのもの。特に、大魔法野球は大変人気のあるスポーツだったので、子供たちは、みんなこぞってやりたがるのです。
そこで、テレビゲームとして販売しようという企画が持ち上がったわけです。
最初は、壁にボールを当てて遊ぶだけだったゲーム機も、ここ15年ほどの間に、とてつもない進歩を遂げていました。
技術は格段に進歩し、立体的な映像や、複雑な動きができるようになりました。容量は大容量化し、高音質の音楽をたくさん流せるようにもなりました。
大魔法野球は、現実よりもド派手な演出で、いろいろな魔法を使い、特殊球を投げることができるようになっています。
最近、流行の“重力打法”も実装されることに決まりました。
重力打法というのは、打ったボールに重力の属性が加わり、ボールが地面にめり込んでしまう技です。その間に打ったバッターはベースを駆け抜けてしまうので、セーフになる確率が格段に上がりました。
これに対処するには、魔法で重力属性を解除するか、逆に魔法をかけてボールを軽くしてやる必要があります。
開発チームは、この技をプログラムするのに苦労していました。
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そんな中、アカサタは、暇があると窓からボ~ッと外の景色を眺めるようになっていました。
それなりに忙しく、それなりに充実した人生です。それでも、終わりの日が近づいているのを、その身でヒシヒシと感じつつありました。
「この人生、とても楽しかった。普通の人間に比べれば、随分といろいろな経験をさせてもらった。それでも、まだ何かやり足りない。まだ先があるという気がしている。もっともっと生きてみたい!そして、これまで以上に突拍子もない経験をしてみたい!それは、贅沢な話だろうか?」
そんな風に思うのです。
そこに1人の人物が現われました。




