変わり者スプレンダー・ミリオンロウ
魔王アカサタの元には、続々と優秀な人材が集まってきていました。
その多くは、ニートや無職や世捨て人など、普通の幸せを追いかける人生を諦めた者たち。世間一般に広まっている“幸せになるためのレール”からは、完全にはずれた人々でした。
よい学校に進み、よい会社で働き、高収入を得、地位や名誉を求める生き方とは全然違っています。
そうではなく、もっと別のモノ…たとえば、“真の幸せ”だとか“真理の追究”だとか“学歴と関係のない能力”だとか、そういったモノを目指して生きてきた人たちです。それは、非常にフワフワとした目標であり、多くの人たちからすれば、無意味に思えたり、よく理解できない生き方でした。
けれども、一流の大学を卒業し、一流の企業に就職し、立派な経歴を持ちながら、それらをかなぐり捨ててやって来る者も少数ながらいました。
スプレンダー・ミリオンロウという名の若者も、その内の1人。彼は、世界トップレベルの魔法大学を卒業したにも関わらず、どこの企業にも就職せず、ブラブラしながら生きていました。
そうして、「人生はツマラナイ。先が見えてしまった。もっと先のわからない人生を歩みたい」と言って、アカサタの元を訪れたのです。
スプレンダー・ミリオンロウは、大学に在学中も、変わり者として有名でした。
能力的には優秀なのですが、性格的に問題あり。というか、未来を見過ぎていて、目の前に考えが行かないのです。
すぐ側にやさしくしてくれる人がいたとしても、「幸せだ」と感じたりはしません。困っている人がいても、「かわいそうだ」と思ったりはしません。
そうではなく、もっと全然違った視点で物事を見ていました。
「人が、このように他人にやさしくするコトで、世界はどのような方向へと向っていくのだろうか?それは、世界を正しい方向へ導くだろうか?それとも、人々を駄目にしてしまうだろうか?」
「この人が困っているのは、なぜなのだろうか?この人の、どの行動が運命をこのように導いたのだろうか?どのように行動すれば、別の人生を歩むことができていただろうか?」
そんな風に考えます。
「現在など、関係ない。まして、過去など、どうでもいい。大切なのは未来だけなのだから」
それが、彼の口癖でした。
現在や過去を考えないわけではないのですが、それらは全て、未来のためにあるのです。
いかに未来をよくするか?そのために、どう生きていけばいいのか?それが、彼の生き方であり、考え方なのです。
*
そんな変わり者スプレンダー・ミリオンロウを、魔王アカサタは気に入っており、自分の側に置いて、よく一緒に行動していました。
今日も、2人で一緒に将棋を指しています。
アカサタの指し回しは、奇想天外。普通の人が思いもつかないような手をバンバン思いつき、何の躊躇もなくやってきます。
スプレンダーは、それとは全く逆。基本に忠実で、ガチガチの定跡に従った固い将棋を指すタイプ。けれども、本当は、そんな自分を壊したくてたまらないのです。
壊したくてたまらないのですが…実際には、そうできない。そのジレンマに、もだえ苦しむのでした。
これで、不思議なことに、勝負はアカサタの方が勝つことの方が多いのです。
「アレ~?おかしいな。また負けちゃいましたよ。アカサタさん、強いなぁ~」
「お前、頭が固すぎるんだよ。もっと頭をフニャフニャにやわらかくして、自由にいかないと!そんなんじゃ、生きててもつまんないだろう?」
「いや、そりゃ、そうなんですけどね。頭ではわかっていても、実際にやるとなると、これがなかなか難しくて…」
2人は、そんな会話をしています。
将棋だけではありません。
他のどんな遊びをしても、大抵は同じような感じ。アカサタの奇策に引っかかって、スプレンダーはいつも、コテンパンにやられてしまうのでした。
とはいえ、そこは、一流魔法大学をトップレベルの成績で卒業した身。仕事をまかせれば、そつなくこなすことも多いのです。まだまだ実践経験が足りないため、予想もしないようなミスをすることもありましたが、それは、いずれ経験を積めば補えるでしょう。




