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「いっぱい勉強して、偉い人になるんですよ」

 ある日、アカサタは街に出て、うどん屋で、天ぷらうどんをすすっていました。

 どんなにお金持ちになろうとも、あまり贅沢ぜいたくはしません。特に、食べ物に関しては、そうでした。一般庶民が食べるような物で充分に満足できたのです。

 服にしても同じ。高級ブランド服で身を固めたりはしません。その辺のアパレルメーカーが販売している量産化された安物の服や、古着屋で売っているコートやズボンで事足ことたりました。


 お酒も、昔に比べれば、飲まなくなってきていました。40歳を越えて、健康に気を使うようになっていたからです。

 一般庶民が通うような大衆居酒屋に足を運び、ハンバーグや、チーズの入った焼きソーセージや、ツクネや鶏皮などの焼き鳥をつまみながら、安酒をあおるのです。

 もちろん、サラダも欠かしません。昔、女勇者ハマヤラが、この世界を去る前に言っていた「ワガママ言わず野菜も食べなさい!野菜はお肉の3倍!3倍よ!」という言葉を忘れていなかったからです。さすがに、お肉の3倍とまではいきませんでしたが、それでも気を使って、それなりの量はとっていました。


 その代わりに、高層建築物や野球場を建てたり、遊園地を作ったり、新しいゲーム機の開発にお金を投じたり。そういった部分で大金を使うのです。

 それは、アカサタ1人だけではなく、みんなが楽しめるようなお金の使い方でした。


         *


 アカサタが、この世界に“焼き肉のタレ”を広めてから、世の中では量産化された調味料が普及していきました。

 ケチャップやマヨネーズやソースも、昔は各家庭で作られ、それぞれ個性的な味をしていました。

 それが、どこのお店でも買える同じ味の商品となってしまったのです。もちろん、工場で作られた量産品です。保存料がたくさん入って長持ちするようにはなりましたが、味はみんな統一されてしまいました。

「なんだか、どれもこれも似たような味になっちまったな…」

 そう言って、アカサタはなげきます。


 もちろん、それによって、良いコトだっていくつもありました。

 世界中どこのお店に入っても、安定した味の食料品を口にできます。一般庶民が安価にサンドイッチやハンバーガーを食べられるようにもなりました。街には、チェーン店のハンバーガーショップやスーパーマーケットやコンビニエンスストアーが建ち並んでいます。24時間あいているお店も増えました。


 その代わり、長い労働時間、安い賃金でこき使われます。覚えなければならない仕事も格段に増えました。

「お客様は神様です」と言われ、店員は最大限丁寧な言葉づかいと対応をしなければなりません。

 労働者は、以前に比べても、非常に高い質の仕事を求められるようになったのです。


         *


 うどん屋にて。アカサタが座っている隣のテーブルでは、父親と母親と子供の3人が、それぞれ大きな丼を前にしています。

 アカサタの耳にも、母親と子供の会話が聞こえてきます。父親は口を挟むのに戸惑っているのか、黙ったままです。子供は、中学生くらいでしょうか?


「いっぱい勉強して、偉い人になるんですよ。そうしないと、この世の中、生きていけませんからね」

「はい、ママ」

「そうしないと、あの人たちみたいに、わずかなお給料で大変な目にいながら働き続けなければならなくなるんですよ」

「わかってます、ママ」

「魔法大学に進んで、高度な魔法をたくさん覚えなさい。そうすれば、将来は約束されたも同じです。あるいは、技術開発の道に進むのもいいでしょう。新しい電化製品を開発し、特許をいくつも取得すれば、それだけで生きていけるようになりますからね。間違っても、何の能力も必要としない無力な労働者になどなってはいけませんよ」

 母親は、結構、手厳しいコトを言っています。


 会話は、明らかにうどん屋で働いている店員さんにも聞こえています。なぜなら、店員さんたちが露骨ろこつに嫌な顔をしたからです。

「チッ…こっちだって、好きでこんな仕事してるんじゃね~や。できるもんなら、手に職をつけて、もっと大金を稼ぎたかったわい」などと、小声で言っている人までいます。


 それを聞いて、アカサタは思いました。

“世の中、苦労してる奴が多いんだな。あの母親、言い方は悪いが、言ってるコトには賛同できる部分もある。金を稼ぎたいのに稼げない。一生懸命努力してるのに、苦労するばかり。そんな人間の、いかに多いことか。これは、なんとかしなければ…”

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