アカサタ、野球を観戦する
ある日、アカサタが城でテレビを眺めていると、そこに知っている顔が映りました。
それは、あの、前の魔王ダックスワイズでした。ちょっと前まで一緒に将棋を指していたと思ったら、今度は若者の姿をしてプロ野球チームに加わってプレーしているのです。
「アイツ、また新しい遊びを始めやがったか…」
1人でそう呟くアカサタでしたが、それはアカサタ自身も同じでした。2人とも、相当に飽きっぽく、1つの分野に長く没頭できないのです。
それで、次から次へと新しいコトへと手を出していきます。ある意味でそれは、誰よりも人生を楽しんでいる生き方であるともいえました。
テレビ画面の中で、野球の実況アナウンサーが、まくし立てます。
「さあ、ダックスワイズ選手、バッターボックスに入りました!」
その間、アカサタは食い入るようにジッと画面を見つめています。
「初球、2球目と、明かなボール球を見送って、3球目のきわどい球を審判はストライクのコール。これから、ピッチャーは4球目の投球に入ります」
次の瞬間、投手の右腕がうなりを上げ、ボールが放たれます。真っ直ぐにキャッチャーミットへと向っていく速球。ダックスワイズが振ったバットは、軽くスイングしただけに見えましたが、それでもボールを真芯でとらえ、グングン飛距離を伸ばしていきます。
「打った~~~~!!!!!これは、打球に勢いがある!!抜けるか?抜けるか?抜けた~!!」と、実況の叫び声。
そのまま打球は、ライトとセンターの守備の間を抜け、ワンバウンドしてフェンスにぶつかります。軽々と2塁ベースを蹴ったダックスワイズは、何の迷いもなく、そのまま駆け抜けます。
そうして、悠々(ゆうゆう)とサードベースまで到達したのでした。
それを見ていたアカサタは、一声。
「やるな~!アイツ!」と、感嘆の声を上げます。
「こうなると、何か冷たい飲み物が欲しくなってきたな」
そう言って、アカサタは部屋の中にある冷蔵庫まで歩いて行くと、瓶ビールを1本取り出しました。今では、このような光景は当たり前となっています。
どこの家庭にも冷蔵庫が置かれ、瓶ビールの1本や2本は常備されています。日々の労働に疲れた男たちは、このようにテレビで野球観戦をしながら、晩酌を楽しむのです。
グラスとビールを手にすると、再びアカサタはテレビの前に居座ります。それから、本格的に野球観戦に集中しました。
*
数日後…
アカサタは、自分の持っている野球チームのメンバーに会いに行きます。
いわば、アカサタはこのチームのオーナーなのです。あまり細かいチームの運営に口を出したりはしませんが、それでも、いくらかのワガママは通ります。
「もっと打率の高い選手を補強してくれ」とか「ドラフトでパワーのある選手を取るように」とか意見することくらいはできました。それらの意見が全て通るわけではありませんでしたが、それでも監督やコーチは、いくらか参考にしてくれていました。
今回は、オーナーの特権を利用して、球場の特等席で観戦することができました。
対戦チームに所属するダックスワイズのプレーを、直にその目で確かめようと思ったのです。
ダックスワイズは、打者としては、特別パワーがある方ではありません。その代わりに、選球眼がよく、確実にボールをミートする技術を持っていました。もちろん、フォアボールも数多く選びます。
足も速い方だったので、普通の選手ならば1塁で止まるところを2塁まで進む、などということもよくありました。
守備は外野。主にセンターを守っています。その足の速さを生かして、普通の選手ならば捕れないないような打球でも、追いつくことができました。
この試合でも、ダックスワイズは活躍を続けます。
さすがに、全打席出塁とまではいきませんが、それでも好守に大活躍!華麗な守備で人々を魅せるプレーを連発します。
その姿を眺めながら、アカサタは喜びました。と、同時に、心のどこかから悔しさもこみ上げてきます。
「クソ~!オレも、あの中に混じって、プレーしたいな!!」
けれども、アカサタの肉体も衰え始めていました。その年齢は、既に40歳を越え、若いプロの選手に混じって野球をするには遅過ぎました。しかも、見るのは得意でも、実際に野球をやった経験など、ほとんどないのです。
ダックスワイズのように、自由に肉体を変化させることができれば、お話は別でしょう。でも、アカサタはそのような能力は持ち合わせていなかったのです。




