世界の進歩のスピードの加速
ある日、ひさしぶりに、魔王の城にダックスワイズがやって来ました。以前は、アカサタの前に魔王をやっていた男です。今回は、青年の姿をしています。
青年の姿のダックスワイズは、アカサタに会うと、ペラペラと機関銃のように喋り始めます。その声は、実に楽しそう。「心の底から人生を楽しんでいるぞ!」という嬉しさと喜びにあふれています。
「で、な。街を守る“ガーディアン・エンジェル”ってのに入隊したわけさ。そこから、街に攻めてくる魔物たちと戦って…」
「へ~」と、あまり興味なさそうに返事をするアカサタ。
「それから、今度は、こんな時代だろう?次から次へと、見たこともない発明品が生まれてきて。いや~、電気の力ってのは凄いもんだな~!!毎日、映画館に通い、家ではテレビを見て暮らしてるよ」
「フ~ン…」と、アカサタの方は、なんだかつまらなさそう。
それでも、ダックスワイズの方は、喋るのをやめません。
「“マジック・ドラッグ”ってのを知ってるか?人間の集中力を極端に高める魔法の薬。アレは、マズイな。人の体を破壊するぞ。今に大きな社会問題になるに違いない。オレは、そのマジック・ドラッグをやめさせる活動に参加していて…」
「はあ…」と生返事をするアカサタ。
「それもこれも、みんな、お前のおかげだ!アカサタよ!お前のおかげで、ほんとに楽しくなった!毎日が毎日、退屈せずに済んでいる!!これから、もっともっと世界をおもしろくしてくれよ!」
その言葉には答ず、代わりにアカサタは別の疑問を口にします。
「けど、ほんとにこれでよかったのか?」
「どういう意味だ?」とダックスワイズは、首をひねって尋ね返します。
「だってよ、元々、この世界にない文化をたくさん持ち込んじまったんだぜ。それによって、いくつもの大きな問題が起きてしまった。こんなにムチャクチャな世界になっちまって…」
ダックスワイズは、拍子抜けした表情で答えます。
「な~んだ、そんなコトか。いいんだよ。どうせ世界は進歩する。いずれ、こうなる時は来ていた。それは、運命みたいなもんだ。世界の流れには誰も逆らえやしない。ただ、お前はその進歩のスピードをちょっとばかし早めただけ。それだけに過ぎないんだ」
「ちょっとばかし…だろうか?」
「まあ、その辺は気にするなって!それよりも、もっともっと世界を混乱させ、おもしろくしてくれ!世界の行く末なんて知ったこっちゃない。何か問題が起きれば、このオレが解決してやる!お前は、もっと問題を起こせ!世界の進歩のスピードを加速させろ!なにより、オレたちが楽しめれば、それでいいじゃないか!」
アカサタは、ダックスワイズのその言葉を聞いて、ちょっとだけ安心しました。けれども、心の底では、まだ疑問は解消されてはいません。
“ほんとうに、これでいいのだろうか?何か大きな間違いをおかしているのではないだろうか?”という疑惑が、常に心の中に居座り続けていたのです。




