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人々は幸せになると同時に不幸になる

 急激に進歩をげていく世の中で、人々は感謝していました。

 これまで、どんなに魔法文明が発達しても、一般市民はその恩恵をほとんど受けることができませんでした。それが、電化製品の普及で、王族やお金持ちだけではなく、大勢の人々が便利な道具を使えるようになったからです。

 台所で簡単に火をつけて料理ができるようになり、お風呂では蛇口じゃぐちをひねるだけで温かいシャワーをびられるようになりました。レコードやカセットテープにより、家にながらにして、音楽を聞くこともできます。

 ラジオ局やテレビ局が開局し、娯楽の幅が格段に広がりました。街には映画館が建てられ、巨大な銀幕で迫力ある映像が楽しめるようにもなりました。


 一般市民は、口々に感謝の言葉をべます。

「実に、便利な世の中になったものだ」

「ありがたや!ありがたや!それもこれも、みな、アカサタ様のおかげじゃ!」

「生きているのが、こんなに楽しいものだったとは!これまでの人生は、一体、何だったのだろう?そんな風にすら、思えてきた」


 ところが、それとは逆に、不満の声をもらす者もいます。

「働いても働いても、仕事が終おわりゃしねぇ!いそがしいったらありゃしねぇ!」

「確かに、新しい便利な道具が作られて、たくさんお金をかせぐことはできるようになったわよ。でも、どんなにお金を稼いでも、それを使う時間がないんじゃ、幸せにはなれないわ」

「オレは、もう…オレは、もう…ぴぎゃあああああああああああああああ!!」


 魔王アカサタが異世界の知識を利用して作らせた製品は、人々を幸せにしました。けれども、それと同時に、新しい問題もしょうじ始めていました。

 朝から晩まで工場でロボットのように働かされる人たちは、精神的にダメージを負うようになっていきます。中には、あまりにも単調な労働の繰り返しに、頭がおかしくなってしまう者さえ現われます。

 病気やケガで入院したり、亡くなる人も増えました。精神的なストレスから、犯罪を犯す者もいます。昨日まで平穏な暮らしをしていた人が、突然トチ狂って、路上で刃物を振り回したりもします。


 それまでも、同じような事態におちいる人はいました。でも、それは、武器や防具を作る工場で働く一部の人々に過ぎませんでした。

 それが、電化製品などの新しい発明の誕生で、世界中に広がってしまいました。それまで、のんびりゆったりと暮らしていた人たちさえ、世界の改革のえをらっていきます。世界の進歩のスピードに、誰もが必死になって食らいついていかなければなりません。

 そうしなければ、アッという間に、時代の流れに取り残されてしまうのですから!


 毎日毎日、工場は稼働かどうし続けます。

 次から次へと新商品が生み出され、古い物はすぐに役に立たなくなり、時代遅れになっていきます。

 それにともなって、新しい工場が作られて、これまでよりもさらに大勢の人々が工場で働かなければならなくなります。

 便利な道具を使うユーザーの数が増えるにしたがって、それらの道具を作る労働者の数も増えていくのです。


 それだけではありません。

 人類は、汚水おすい排気はいきガスをれ流し、ゴミの量も飛躍的に増加してしまいました。

 新しい製品を作り、使うのに精一杯で、それらをどう処理するかまでは、誰も頭が回らなかったのです。


 こうして、この世界にアカサタがもたらした新しい道具の数々は、この世界そのものを滅ぼしていったのです。

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