新しい世界の変え方
魔王アカサタは、考えました。
「そうだ!この世界が退屈なのであれば、この世界に足りないモノを補っていこう!魔物と戦うことで人を成長させるのではなく、もっと別の方法で成長させていけばいい!」と。
それから、全世界に散らばる魔王軍全軍に向って通達を出しました。
「魔物が世界を徘徊して回る時代は、終わりだ!これからは、別の方法で世界を変えていく!」
配下の者たちは、突然の方針転換にブツクサと不平をもらしながらも、仕方がなく指令に従います。
ただし、一部の者たちはその命令に従わず、独自に研究を続け、凶悪な魔物を生産し続けたのですが…
それは、また別のお話。
*
アカサタが考えたのは、こうです。
「この世界には、とにかく娯楽が少なすぎる。オレが元々住んでいた世界では、もっと楽しいモノも、おもしろいコトもたくさんあった!この世界には、そういった娯楽が足りないのだ!そういったモノを作らせれば、人々だって、きっと幸せになるはず。そのような新しい文化を生み出すことに力を注がせよう!それが、人の成長にもつながっていくだろう!」
さしあたって、アカサタは、“焼き肉のタレ”を作らせました。
「ええい!この世界の肉は味気ない。ただ塩コショウで味付けしただけの焼き肉は、もう飽きた!焼き肉のタレだ!焼き肉のタレを持ってまいれ!!」
こうして、魔王アカサタの命令に従って、料理人たちは、焼き肉のタレの開発にいそしみます。
料理人が作ってきた焼き肉のタレを試食すると、アカサタは叫びます。
「違う!こんなんじゃない!もっと甘いヤツだ!」
別の試食品を口にすると、今度はこう文句をつけます。
「違う!違う!こっちは甘すぎる!もっとピリッとした辛みが欲しい!」
さらには、こんな風にも。
「これなんて全然駄目だ。しょう油と砂糖を混ぜただけじゃないか!わかってない!お前らは何もわかっていない!!そんな単純なモノじゃないんだよ!焼き肉のタレってヤツは!!」
最初は、なかなかうまくいかなかった焼き肉のタレの開発ですが、徐々に、それらしきものに近づいていきます。
ただ辛いだけだったり、しょう油の味しかしなかったり、甘ったるいばっかりだったり、数々の失敗作を経て、ようやくアカサタの口に合うモノができ始めます。
「ウ~ム…これなんか、なかなかいいな。だが、まだまだ理想には程遠い。もっと深みが欲しいな~」
そうして、一流から素人まで世界中の料理人たちが研究に研究を重ね、どうやら、“理想の焼き肉のタレ”が完成しました。
素材に、野菜やリンゴやオレンジやレモンやゴマやトウガラシやハチミツなど、様々な物を使い、ついにアカサタが心の底から満足できる1品となったのです。
「これだよ!これ!オレが知っている“焼き肉のタレ”とはちょっと違うけど。こいつは、それ以上だ!うまい!本当にうまい!これからは、このタレを使って、焼き肉を食おう!」
そうして、アカサタが開発させた焼き肉のタレは、さっそく量産化され、世界中へと売り出されました。
その売り上げは爆発的!生産した端から端から飛ぶように売れていきます!次から次へと、店の棚に並んでは、瞬く間に姿を消していきます。
「なんだ、この味は!?」
「革命だ!食の革命だ!!」
「これが新時代の味!新時代の焼き肉の食い方か!!」
人々は、喜びと共に驚きの声を上げ、肉をほおばっていきます。
そうして、しばらくの間、アカサタ印の焼き肉のタレは、常に売り切れを起こす大ヒット商品となりました。
けれども、アカサタの改革は、ここで終わったりはしません。
配下の者たちに、次なる指令を出します。




