魔王を倒しに来る者
魔王の城に帰ってきたアカサタは、また以前と同じように暮らし始めました。
部下から入ってくる報告を聞き、それに対応した指示を出し、時折攻めてくる冒険者たちの相手をして暮らす生活です。
けれども、まともにアカサタと戦える人間などいはしません。大抵は、ちょこちょこっと適当に相手をしてやり、お帰りを願うだけでした。
中には、アカサタの強さと懐の広さに感銘を受け、そのまま配下の者として働き始める者もいました。
アカサタ自身は、「別に心が広いとか、そういうのじゃないんだけどな。ただ、ここで助けてやれば、今度はもっと強くなって帰ってくるかもしれない。その方がおもしろそうだろう?」などと言っていましたが。
それを聞いて、命を助けられた者は、さらに感動するのでした。
*
そんなある日、いつもとは事情が違う相手がやって来ました。
いきなり魔王城に攻め込んで来たわけではなく、その前に四天王である“魔王の4本の腕”と呼ばれた4人を倒してきたというのです。
その者は、まだ20歳にも満たない少年の姿をしていました。
顔を布で覆った少年は、部屋に入ってくるなり、いきなりアカサタへと斬りかかってきます。
あわてて剣を抜き、応戦する魔王アカサタ。
一太刀、剣を重ね合わせただけで、その強さは理解できます。
「コイツ…やるな。尋常じゃないレベル!何者!?」
そう言うと、アカサタは本気になります。
キン!キン!カン!と、何度も剣と剣がぶつかり合い、アカサタは思いました。
“まだ、このような人間がいたとは!世界は広い…”
少年は、剣だけではなく、魔法も放ってきます。
炎・雷・風・氷と、一通りの基本魔法は使えるようです。アカサタも、それに応じて防御魔法を発動したり、反撃したりします。
そうこうしている内に、再び接近戦となりました。剣と剣が触れ合い、あるいは相手の攻撃をかわし合い、なかなか決着がつきません。
その時でした。アカサタの放った剣撃が、少年の顔を包み込んでいた布を切り裂いたのは!そうして、少年の素顔がさらけ出されます。
それを見て、魔王であるアカサタは、こう呟きました。
「なんだ、お前か…」
そう、その顔には見覚えがありました。なんのことはない、それは魔王ダックスワイズであったのです。いえ、今は、もう魔王ではありません。魔王を倒してにきた勇者なのです。
「やれやれ、バレちゃったか…」
少年の姿をしたダックスワイズは、残念そうに、そう言います。
それを見て、アカサタは剣を引きました。
「何しに来たんだよ」
アカサタの言葉に、ダックスワイズは、こう答えます。
「もちろん、君を倒しに来たんだよ。君が魔王、僕が勇者。以前とは、全く逆の関係だね」
ダックスワイズは、見た目だけではなく、喋り方も少年っぽく変わっています。
「お前だと知ってたら、相手をしなかった」
「なんでだよ!こっちは退屈してるのに!本気で僕の相手ができるのは君だけなんだから!」と、起こった風な口調の勇者ダックスワイズ。
「で、楽しかったか?」
「そりゃ、楽しかったよ!1度、この姿に戻って、全ての能力も封じて、最初からやり直したんだ!ちゃんと1から修業して、君の元まで来たんだぜ!」と、心から嬉しそうな勇者ダックスワイズです。
「やれやれ…」と、あきれた顔の魔王アカサタ。
「でも、そろそろ、こういう関係にも飽きてきたなぁ。もっと楽しい遊びはないものだろうか?なぁ、アカサタ。もっとおもしろい遊びを提供してくれよ」
ダックスワイズの提案に、最初は興味を示さなかったアカサタですが、急に何かを思いついた風になって答えました。
「ン?待てよ…」
「お?何か思いついたか?」と、興味津々(きょうみしんしん)のダックスワイズ。
「ああ、思いついたぜ!しばらくの間、旅をして、いろいろ考えて。それから、お前に会って、思いついた!」
「お?なんだ?なんだ?」
「まあ、しばらく待ってなって。うまくすれば、お前の退屈しのぎにもなるだろう。何より、世界中の人々のためになる。そんな方法を思いついたぜ!」
「そうか!じゃあ、楽しみに待ってるからな!」
そう言葉を残し、勇者ダックスワイズは、去っていきました。
「これは忙しくなりそうだな…」
残されたアカサタは、1人、そう呟くのでした。




