再び炎の魔術師との対決
アカサタは、アルファベ国の首都アルファベへと帰ってきました。
かつて勇者として名を馳せ、今は魔王として悪名をとどろかせているアカサタでありましたが、旅を続けている内にボロボロの格好になっていき、髪の毛もヒゲも伸び放題。
街の人たちは、誰も、それがアカサタだと気づきません。
「なんだ、汚らしい浮浪者がいるな」くらいにしか思っていないのです。
アカサタ自身、あまり目立ちたくはなかったので、人々のそういった反応は、かえって好都合でした。
そうして、街の安宿に泊まり、昔を懐かしみます。
「そういえば、初めてこの世界にやって来た時も、寝泊まりしたのは、この街のこんな宿だったな…」
そんな風に呟きながら、狭いベッドの上に寝転びます。
それから数日間、街をブラつきながら、喫茶店で紅茶を飲んだり、古ぼけた定食屋で労働者に混じって貧しい食事をしたりして過ごしました。
*
そんなある日のこと。
ボロボロの格好をした男を、アカサタだと認識できる者が現われました。
あのスカーレット・バーニング・ルビーです。
「アカサタ!あんた、何やってんのよ!」
スカーレット・バーニング・ルビーは、開口一番、そう叫びます。
「ル、ルビーのアネゴ!どうしたんだ?そんなに激昂して…」
「どうしたもこうしたもないわよ!せっかく平和になった世の中を、アンタ、何してるのよ!」
その言葉を聞いて、アカサタは納得しました。
「い、いや~、いろいろ考えてたら、流れでこうなっちまって…」
「何が流れで、よ!魔王なんてやめて、さっさと元の世界に戻しなさい!」
「急にそう言われても、なかなかそうもいかなくて…」
「そう!だったら勝負しなさい!今すぐ、このあたしと!」
「え、え~!?なんで、そうなんの!?」と、アカサタは断ろうとしますが、どうにも聞き入れてもらえません。
そこで、仕方なく、街の外に出てスカーレット・バーニング・ルビーと勝負することになりました。
*
魔王アカサタの前に対峙しているのは、単なる子持ちの主婦ではありません。
確かに、今や結婚し、子供も生まれ、幸せな家庭を築いた1人の女性ではありました。けれども、全身から鬼のようなオーラを放っています。その迫力は、かつて魔王討伐を掲げ、数多くの魔物を倒して回った炎の魔術師そのものでした。
「いくわよ!」
そう叫ぶと、炎の魔術師スカーレット・バーニング・ルビーは、いきなり大技を放ってきます。
空中に巨大な炎の輪をいくつも生み出すと、敵目がけて撃ち放ちます。
眼前に迫り来る炎を前に、アカサタは思いました。
「昔ならば、このくらいの攻撃でも苦労していただろうが。これだけ成長した今となっては…」
そうして、剣の一振りで軽々と炎の輪を打ち消します。
その後も、次から次へと攻撃を繰り出してくる炎の魔術師。
魔王アカサタは、それらの攻撃を防いだり、かわしたりしますが、自分からは決して攻撃しようとはしません。
それを見て、スカーレット・バーニング・ルビーは鬼の形相で叫びます。
「覚えておきなさい!アカサタ!子を守る母親の強さを!アンタがやってるのは、そういうコトなのよ!!せっかく平和な世の中になったのに、こんな風にしちゃって!アンタが敵にしてるのは、あたしだけじゃない!世界中にいる平和や安定を望む母親や父親なのよ!」
その言葉を聞いて、アカサタの心がズキリと痛みました。
そうして、こう答えます。
「別に、そんなつもりだったわけじゃないさ。ただ、退屈だっただけ。だから、ちょっとおもしろくしてやろうと思っただけなんだ。この世界を。しかも、それにより人々も成長する。それのどこが悪い?」
「悪いに決まってるでしょ!気軽な気持ちだから余計に悪いのよ!そういうのを本当の“悪”って言うの!!」
「気軽だから、余計に悪いか…」
そう呟いたアカサタではありましたが、能力の差は歴然。
いかな強力な魔法をいくつも覚えたスカーレット・バーニング・ルビーであろうとも、魔王アカサタには到底勝てません。ダメージ1つ負わせることもできないまま。
結局、最後は魔力が尽きて、その場に倒れ込んでしまいました。
そこにゆっくりと近づいていくアカサタ。
「ゴメンよ、アネゴ…」
ハァハァと息を切らしながら、1人の母親は答えます。
「アンタ、もうちょっとシッカリしなさいよ。いろいろ考えて、人々のためになるようなコトをやりなさいよ。お願いだから…」
「わかった。そうするよ」
そう答えると、アカサタはスカーレット・バーニング・ルビーを介抱し、家まで送り届けると、魔王城へと向って帰っていきました。




