世界中の人々から愛されたいの!
魔王アカサタが四天王の内、最後に会いに行ったのは、“愛のウエスタニア”のところでした。
ウエスタニアは、アカサタのために、たくさんのパンやケーキやクッキーを用意してくれます。それらと共に、様々な種類のコーヒーも並んでいます。
「どうする?ブラックが一番おいしいけど。これが、コーヒー本来の味を最も楽しめるのよ」
ウエスタニアは、そう言いますが、アカサタはドバドバとミルクを入れます。
「いや、そのままはちょっと…オレには、この方が合ってる」
「そう。で、何のご用だったかしら?」
愛のウエスタニアに尋ねられて、アカサタは、これまでの3人にしたのと同じように説明をしました。
煎れたてのコーヒーの香りをかぎながら、しばらく話を聞いたウエスタニアは答えます。
「フ~ン…なるほどね。つまり、生きるのに迷ってるってことね」
「そうなんだ。みんな、それぞれ生きる目的というか、ハッキリとした意志というか、そういうのを持って生きている。けれども、オレには、そういうのはない。たとえ、一時見つかったとしても、すぐに色あせてしまう。『これじゃ、なかったんだ』と思い直す」
少しの間、考えてから、愛のウエスタニアは、こう答えます。
「自分にやりたいコトがないんだったら、人の幸せのために生きていけば?私は、そうしてるわよ」
「それが、お前の生きる目的か?」
「そうよ。私は、世界中の人々から愛されたいの。誰かに愛されたり、感謝されたり、褒められたりすると、心の底から震えるような快感を感じるの。それが、たまらなくたまらなく嬉しいのよ!」
そこで、アカサタは「オヤ?」と思いました。それで、こう尋ねてみました。
「でも、それっておかしくないか?それだと矛盾が生じるだろう。みんなから愛されたいのだったら、魔王なんかに協力せず、魔物を倒す側に回るだろう?」
愛のウエスタニアは、フフフ…と笑いながら答えます。
「バッカね~。それじゃあ、なんにもならないじゃないの。世界は荒れているから、感謝されるの。平和な世の中で、誰が『ありがたい!』だなんて思ってくれるの?もっともっと世界は荒れるべきなのよ!そうして、どうしようもなくみんなが困った時、私が現われて救ってあげるの!そうしたら、人々は、私のコトを心の底から尊敬し、慕い、愛してくれる!これまでだって、ずっとそうやって生きてきたんだから!」
それを聞いて、アカサタは、こう思いました。
“コイツは、4人の中でも一番狂ってやがるな…だが、その気持ち、わからないでもない。やり方は褒められたもんじゃないが、確かに、人々から尊敬され、愛されるというのは心地のよいものだ”
ただ、それを言葉にして語ることはありません。
代わりに、アカサタは、こう言いました。
「そういうのも、どうかな?オレも、これまで、“人のため”だと思って生きてきたりもしたが、結局、そこには限界があった。“みんなのために、魔物を倒す”“みんなが言うから、魔王討伐に出かける”そういうのは、長続きしない。最後の最後には虚しくなってしまい、やる気を失ってしまう」
「あなたは、そこに快感を感じないわけね?」
「そうだな。全く何も感じないわけじゃあないが、心の底から打ち震えるほど、ってわけでもないな。いずれ、それにも飽きてしまう。そうではなく、“自分なりの夢”が欲しいわけさ」
「フ~ン…その自分なりの夢を“みんなのために”に変えちゃえばいいのに」
アカサタは、ウエスタニアのその言葉を聞いて、また深く考え始めるのでした。
 




