サウザンカのお茶会
次に、魔王アカサタが会いに行ったのは、“樹木のサウザンカ”でした。
サウザンカが住んでいたのは、南の地。海沿いの城に居を構え、主に海の魔物を育てながら暮らしています。
正確にいえば、“海の魔物を育てている者たちを管理しながら暮らしている”と表現すべきでしょうか?
樹木のサウザンカは、アカサタが訪れたことを知ると、お茶会の準備をし、もてなしてくれました。
テーブルの上には、世界各地から取り寄せた様々な種類の紅茶の葉が並んでいます。それに加えて、サンドイッチやパスタなど、軽食も用意されました。洋風の料理だけではなく、チャーハンやギョウザやシュウマイなど中華風の料理も出てきます。
「さあさあ、お好きなだけ、召し上がりなさいな。紅茶は、どれにする?好きな葉を選んで。私が最高の状態でいれてあげますからね」
そう言われても困ってしまいます。アカサタは、別にお茶の専門家ではないのですから。
「まあ、よくわかんねぇから、適当でいいよ。お前が一番いいと思うのをいれてくれ」
アカサタがそう答えると、サウザンカは厳選して、いくつかの葉を選び、お湯を注いでくれました。
「じゃあ、これとこれをブレンドしましょうね。サンドイッチと最高に相性がいい組み合わせなのよ。あとは、料理に合わせて、新しくいれ直してあげますからね」
樹木のサウザンカは、やさしく、そう語りかけてきます。以前に戦った時とは、全然態度が違います。どうやら、敵に厳しく、味方にはやさしいタイプのようです。
「で、何の用なの?」と、問いかけられて、アカサタはノーザンクロスの時と同じように答えます。
「いやな。“生きる”ってコトがわからなくなっちまってな。オレは、何のために生き、何のために戦えばいいのか。その答を見出したいんだ」
「フ~ム…えらく難しいコトを聞くのね」
それから、アカサタは、ノーザンクロスに会いに行った時のコトを話しました。
それを聞いて、サウザンカは答えます。
「なるほどね。でも、私はちょっと違うわね。ノーザンクロスは、少し理想に走り過ぎているところがあるわ。私は、それよりも、もうちょっと人生を楽しみたいと思っているタイプね」
「人生を楽しみたい?」
「そうよ。確かに、世界の進歩は大切。人々に厳しくすることで、その能力は上がっていくでしょう。でも、それだけではツマラナイわ。やっぱり、人生は楽しまなければ。こうして、お茶を飲んで、おいしい物を食べて、気持ちいいことをして。そうやって、人は生きていくのよ」
「なるほどな…」
それならば、アカサタにもわかりました。何もかもが義務や目的でがんじがらめ。それでは、気が滅入ってしまいます。何のために生きているのかも、よくわからなくなってしまいます。
そうではなく、純粋に、ただ単純に“人生を楽しむ”そういうのも必要なのです。
「私だって、人々には幸せになって欲しいわ。そこには厳しさが必要なのもわかる。でも、目の前の幸せを追いかけることも忘れて欲しくはない。アカサタ、魔王となったあなたなら、そういう世界を創り上げることだってできるはずよ。そうしなさい」
樹木のサウザンカにそう言われて、アカサタは、また深く考えにふけるのでした。




