城の中を歩き回る
魔王アカサタは、部屋を飛び出すと、魔王城の中で働いてる人々に意見を聞いて回りました。
城では大勢の人々が働いています。毎日の食事を作ってくれる料理人や、ベッドメイキングや洗濯をしてくれるメイドさん。重い荷物を運ぶ下働きの男たち、などなど。
アカサタは、城の廊下で出会った男に、いきなり質問をあびせかけました。
「オイ、お前!」
「は、はい。なんでしょうか?魔王様?」と、男はおびえながら答えます。
「お前は、何のために生きているのだ?」
「な、何のためと申されましても…」
そこで、アカサタは質問を変えます。
「夢はないのか?」
「ゆ、夢でございますか?」
「そうだ、夢だ。『自分は、このために生きている!これをやるために生まれてきたのだ!』というものがあるだろう?」
「い、いえ、特にそのようなものは…」
「フン!ツマラン奴だ!」
そう吐き捨てると、アカサタは先に進みます。
次に出会ったのは、見習いの侍女でした。まだ若く、10代前半。もしくは、15歳をちょっと越えたくらいでしょうか?
アカサタは、若い侍女見習いに向って、同じ質問を投げかけます。
「お前は、何のために生きているのだ?お前の夢は?」
侍女見習いは、先ほどの男とは違ってビクビクする様子もなく、ボンヤリした声でこう答えました。
「夢ですかぁ~?そうですねぇ~?そんなに大それた夢というのはありませんが。あえて言うなら、一生懸命に働いて、お金を稼いで、幸せになることくらいですかねぇ~?」
「金持ちになれば、幸せになれるか?」と、アカサタはさらに尋ねます。
「ウ~ン…そりゃあ、まあ、お金がたくさんあれば、おいしい物も食べられるし、好きなところへも行けるし。幸せなんじゃないですかぁ~?」
「じゃあ、今は幸せではないと?」
「そんなコトもないですけどぉ~」
「じゃあ、幸せか?」
「幸せっていえば、幸せですねぇ~?それなりに~」
「フム。そうか」
そう言うと、アカサタは考え事をしながら、さらに先へと進んでいきます。
それからも、アカサタは出会う者、出会う者に、同じような質問をかけて回ります。
すると、誰もが似たような答をしてきます。
「みんなのために料理を作り続ける、この生活が幸せだ」とか。
「今のままで満足だ。このままの時間が、いつまでも続けばいい」とか。
「ちゃんと睡眠が取れて、最低限の食事ができて、いくらかのゆとりある時間があれば、それでいい」とか。
それを聞いて、魔王アカサタは考えます。
「どいつもこいつも、ピンとこない。もっとハッキリとした、明確な答はないものだろうか?このオレを満足させるような答をしてくれる者はいないものだろうか?」と。
さらに、こうも考えます。
「このままではいけない。この狭い城の中では、これ以上の意見は聞けないだろう。世界に出よう!もっと広い世界に!」
そうして、アカサタは魔王城を後にすると、ポッ~ンと勢いよく世界へと飛び出していきました。




