神も魔王も同じようなモノ
魔王となったアカサタは、自分の能力を何に使えばいいのか、完全にわからなくなってしまっていました。
確かに、世界に魔物を放ったことで、よいコトもありました。それで、人類の進化の促進の手助けはできます。
けれども、それでは、前の魔王と同じコトをやっているだけ。決して、それを超えることはできず、それ以上の存在になれてはいないのです。ただ立場が入れ替わっただけに過ぎません。
ここにきて、アカサタは魔王ダックスワイズの気持ちが理解できました。「世界は退屈だ…」と言い続けていたダックスワイズの思いに、心の底から共感できたのでした。
それから、1人でこう呟きます。
「神っていうのも、こんな気持ちなのかもしれないな…」
最初にアカサタをこの世界に連れてきたのは、神様でした。今や、アカサタは、その神様の気持ちすら理解しようとしているのです。実際に、神様がどのような心持ちで生き続けているのかはわかりません。けれども、それを理解しようと挑戦してはいました。1歩ずつですが、その領域へと近づきつつあったのです。
それから、アカサタはベッドの上に寝転がり、こんな風に考えて、その考えを言葉にしてみました。
「魔王も神も同じようなモノか…」
部屋には、他には誰もいません。聞いている者もいないのに、1人で喋り続けます。
「どちらも絶大な能力を誇りながら、その力を持てあましてしまっている。だから、退屈しのぎに、いろいろとやってみるのではないのだろうか?アレやコレやと試してみる。それに飽きたら、また別の遊びを試してみる。その繰り返し」
アカサタは、ベッドに寝転んだまま続けます。
「きっと、神の野郎が、このオレをこの世界に連れてきやがったのも、そのためだったのだ。世界は、あまりにも退屈過ぎる…」
アカサタは、1人で考え続けます。
「この能力を、一体、何に使えばいいのだろうか?」と。
自分の欲望のために使ったとしても、すぐに満足し、飽きてしまいます。かといって、人々の幸せのために使ったとしても、満足感を得られません。そこに意味を感じないのです。
1人を助けたところで、別の1人が困る。その1人を救ったとしても、また別の1人が不満をもらし始める。ひたすらに、その繰り返し。
人々の願いは尽きません。欲望にキリはありません。たとえ、誰かの希望をかなえたとしても、それは別の誰かの不満を生むだけ。どんな理想的な仕組みを作り上げたところで、無駄でした。世界中の人々全てが満足するような世の中などありはしないのです。誰かにとって理想的な世界も、他の誰かにとっては最悪の環境なのですから。
「それでも…」
と、アカサタは思います。
「それでも、まだオレにはできるコトがあるかもような気がする。自分のためか、他人のためかは関係ない。あるいは、もっと別の誰かのために、何かできるコトがあるという、そんな気が。少なくとも、ここは、まだ終わりの地点ではない。諦めるべき時ではない。なぜだかわからないが、そういう確信がある」
不思議と、アカサタは自然にそう思うことができました。万能にも近い能力を手に入れて、生きることを諦めたり、放棄したりすることなく、「まだ先に進もう!」と思うことができたのです。
そうして、ベッドから飛び起きると、扉を開けて、部屋の外へと飛び出していきました。
実際に、その思いは正解でした。この時の「もっと別の誰かのために、何かできるコトがある」という思いが、やがて運命はアカサタをある地点へと導いていくのですが…
それは、まだ遠い遠い先の出来事となります。




