表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/324

魔王アカサタは、城の中で1人考える

 魔王となったアカサタは、城の中で1人考えます。

「強さを極め、欲しい物は何でも手に入る。望めば、大抵の願いは、かなってしまう。そのような状況に置かれた時、人は一体、何を望むのだろうか?何を願うのだろうか?」と。

 そうして、さらに考えを進めていきます。

「長い旅と戦いの果てに、このオレは、人々が望んでやまないような能力と立場を手に入れてしまった。まだ“極めた”というほどではないかもしれないが、それでも充分なくらいの領域には達しただろう。ここにきて、何をすればいいのか、わからなくなってしまった…」


 それは、かつて魔王ダックスワイズが考えていたコト、そのまんまでした。

 ダックスワイズも、また全てを手に入れた自分が、何をすればいいのかわからなくなってしまっていたのです。そうして、それまで以上の退屈を感じるようになっていたのでした。


 そこに現われたのが“勇者アカサタ”でした。

 アカサタは、ダックスワイズの想像をはるかに上回るくらい突拍子とっぴょうしのない行動を取り、楽しませてくれました。遠くから眺めているだけでも、全然飽きなかったのです。

 その上、自分を倒すために、やって来てくれたのです。ダックスワイズにとって、これ以上、うれしいコトはありませんでした。

 そのアカサタが、今や、何をすればいいのかわからなくなってしまっているのです。


 閉塞へいそく停滞ていたい閉鎖へいさ空間。世界の終わり。世界の果て。閉ざされた部屋。行き止まり。幽閉ゆうへい。前にも進めないし、後ろにも戻れない。ギュウギュウに押し込められたマシュマロの中で、全く身動きが取れない。

 アカサタの頭の中は、そういったネガティブなイメージでいっぱいになっていきます。そうして、どうすればいいのか全くわからなくなってしまっていました。


 何かを望めば、それに向って進めばいい。

 そこには失敗もあるでしょうし、思ったようにうまくいかないコトもあるでしょう。それでも、1歩は先に進めます。たとえ、一時いっとき立ち止まったとしても、いずれは進める時が来るでしょう。長い目で見れば、必ず前進しているものです。

 けれども、その“目標”自体を失ってしまったとしたら?自分が何をやりたいのかすら、わからなくなってしまったとしたら?

 それは、全ての終わりでした。何がやりたいのかすらわからなくなってしまったら、もはやどうしようもありません。


 現在のアカサタの状態が、それでした。

 世界を支配する立場に立ち、どのような方向へも世界を変えていける。そうなった時、何をすればいいのかわからなくなってしまったのです。何をしてもむなしいばかり。結局、現実は想像を超えたりはしない。想像の範疇はんちゅうでしかない。それがわかった時、何もする気が起きなくなってしまったのです。


 時折ときおり、魔王アカサタを倒そうと、新しい勇者や冒険者が城を訪れます。

 けれども、今のアカサタを倒せる者などいはしないのです。誰もが返り討ちにうばかり。アカサタは、そんな冒険者たちを殺さずに帰します。さらなる成長を期待して…

 そんな戦いの時間も、アカサタにとっては一瞬の退屈しのぎにしかなりませんでした。根本的には、何も問題は解決してはいないのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ