魔王アカサタは、城の中で1人考える
魔王となったアカサタは、城の中で1人考えます。
「強さを極め、欲しい物は何でも手に入る。望めば、大抵の願いは、かなってしまう。そのような状況に置かれた時、人は一体、何を望むのだろうか?何を願うのだろうか?」と。
そうして、さらに考えを進めていきます。
「長い旅と戦いの果てに、このオレは、人々が望んでやまないような能力と立場を手に入れてしまった。まだ“極めた”というほどではないかもしれないが、それでも充分なくらいの領域には達しただろう。ここにきて、何をすればいいのか、わからなくなってしまった…」
それは、かつて魔王ダックスワイズが考えていたコト、そのまんまでした。
ダックスワイズも、また全てを手に入れた自分が、何をすればいいのかわからなくなってしまっていたのです。そうして、それまで以上の退屈を感じるようになっていたのでした。
そこに現われたのが“勇者アカサタ”でした。
アカサタは、ダックスワイズの想像を遥かに上回るくらい突拍子のない行動を取り、楽しませてくれました。遠くから眺めているだけでも、全然飽きなかったのです。
その上、自分を倒すために、やって来てくれたのです。ダックスワイズにとって、これ以上、嬉しいコトはありませんでした。
そのアカサタが、今や、何をすればいいのかわからなくなってしまっているのです。
閉塞。停滞。閉鎖空間。世界の終わり。世界の果て。閉ざされた部屋。行き止まり。幽閉。前にも進めないし、後ろにも戻れない。ギュウギュウに押し込められたマシュマロの中で、全く身動きが取れない。
アカサタの頭の中は、そういったネガティブなイメージでいっぱいになっていきます。そうして、どうすればいいのか全くわからなくなってしまっていました。
何かを望めば、それに向って進めばいい。
そこには失敗もあるでしょうし、思ったようにうまくいかないコトもあるでしょう。それでも、1歩は先に進めます。たとえ、一時立ち止まったとしても、いずれは進める時が来るでしょう。長い目で見れば、必ず前進しているものです。
けれども、その“目標”自体を失ってしまったとしたら?自分が何をやりたいのかすら、わからなくなってしまったとしたら?
それは、全ての終わりでした。何がやりたいのかすらわからなくなってしまったら、もはやどうしようもありません。
現在のアカサタの状態が、それでした。
世界を支配する立場に立ち、どのような方向へも世界を変えていける。そうなった時、何をすればいいのかわからなくなってしまったのです。何をしても虚しいばかり。結局、現実は想像を超えたりはしない。想像の範疇でしかない。それがわかった時、何もする気が起きなくなってしまったのです。
時折、魔王アカサタを倒そうと、新しい勇者や冒険者が城を訪れます。
けれども、今のアカサタを倒せる者などいはしないのです。誰もが返り討ちに遭うばかり。アカサタは、そんな冒険者たちを殺さずに帰します。さらなる成長を期待して…
そんな戦いの時間も、アカサタにとっては一瞬の退屈しのぎにしかなりませんでした。根本的には、何も問題は解決してはいないのですから。




