平和な時代の崩壊と、文明の発展
魔王となったアカサタは、人々が困らないように「村や街や畑を襲わないように」と命令をくだしました。
もちろん、最初はその命令も遵守されていましたが、時と共に効力を失っていきます。末端まで命令が行き届かなくなってしまったからです。
そもそも、魔物の中には知能の低い者も大勢いました。自らの欲望に従って、好き勝手に生きる者たちです。そういった魔物にまで、細かい指令を伝えるのは不可能でした。
命令に違反した者には罰を与えるという方法も取られましたが、それもあまりうまくはいきませんでした。次から次へと命令違反をする者が現われていって、キリがなかったからです。
結局、最後はまともな法など作らず、自由気まま好き勝手に行動させる方式に切り換えられてしまいました。
こうして、世界の平和は打ち破られ、混沌とした時代へと突入していきます。
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元々、人間相手に結成された“ガーディアンエンジェル”は、今度は外部から迫り来る敵相手に戦い始めます。そうして、各街ごとに設置された小さな団体であったものが、連携を取り始め、巨大な組織へと成長してゆくのでした。
アカサタの活躍によって生まれた組織が、今や、そのアカサタの率いる魔物たちと戦うようになるとは…実に、皮肉なお話です。
けれども、それとは逆に、よいコトもいくつかありました。
たとえば、人間同士の戦争がなくなったりだとか。街の外から無数の魔物たちが攻めてくるというのに、人と人とが争っている場合ではなくなってしまったのです。
武器や防具の開発も進みました。これまでよりも威力の高い剣や槍が作られ、より防御力の高い盾や鎧が生産されていきます。
それに伴って、それまで量産されていた武器や防具の価格は急激に下がり、人々の手に届きやすくなりました。
魔法も目覚ましい発展を遂げていきます。
特に“移動系の魔法”と“通信系の魔法”の進歩には、目を見張るものがありました。
上級魔術師たちは、街から街を瞬時にワープできる魔法を覚えていきます。
それまで人や伝書鳩などの手によって運ばれていた手紙も、形を変えていきます。魔法の力で、情報そのものが、直接、飛ばせるようになったのです。アカサタが元々住んでいた世界でいえば、電話やインターネットに近いものでした。
こうして、世界は再び不安定になると同時に、その文明レベルは飛躍的に向上していったのです。




