退屈な生き方
それからも、勇者アカサタは世界をさまよい歩きます。
途中で立ち寄った街で困っている人を見かければ、助け。適当な宿を見つけ、質素な食事にありつきながら。宿が見つからなければ、野宿です。
アカサタは、そういうのには慣れていました。別にフカフカのベッドに寝る必要もなければ、豪華な料理もなくて構わないのです。
場末の一般庶民が通うような食堂で、なんだかよくわからない野菜と一緒に卵を炒めた物や、昨日の残り物のスープや、固いパンや、よく精米されておらず炊かれた茶色のご飯などを食べるのが好きでした。
味はともかく、そこには作ってくれた人の心がこもっており、それを感じることができたからです。
それよりも、自由の方が大切でした。寝る場所や食べる物にはこだわりませんでしたが、束縛されるのだけは嫌だったのです。誰にも邪魔されず、気の向くままに旅をする方が性に合っていました。
なので、「どうか、このまま、この街で暮らしてくだされ。お気に召すような娘も用意いたします。誰でも好きな女を妻にめとり、いつまでもこの地を守り続けてくだされ」などという誘いを受けることが何度もあったのですが、そのたびに、その誘いを断っていました。
それと同時に、アカサタはこんな風にも迷います。
“このままの生き方を続けていてもいいものだろうか?どこか1ヶ所に安住する生き方は合わないとしても、このように旅を続けるだけの人生も、長い目で見れば、似たようなものなのではないだろうか?”と。
元々、この世界にやって来た当初の目的は、“魔王を倒し、世界を平和に導くこと”でしたが、今やその目的も半分は達成し、魔王も姿をくらましてしまったため、実質的には目的を失ってしまった形になっています。しかも、それすら自分で選んだ道ではなく、神様に与えられたものだったのです。
ここに来て、アカサタは生きる目的を失っていました。誰かに命令され、何かに従って生きるような生き方には、もう飽き飽きしていました。が、かといって、自分なりに何かやりたいコトがあるわけでもないのです。
そこで、アカサタは、こんな風に呟きます。
「ああ…退屈だ。世の中は、退屈すぎる。誰か、この退屈さを満たしてはくれないだろうか?もっと刺激が欲しい。どこに行けば、その刺激に出会えるのだろうか?」
くしくも、それは、魔王ダックスワイズが口癖のように言い続けていたセリフでした。
アカサタは、ここに来て、魔王の境遇と心境に近づきつつあったのです。
そして…




