1人の戦士の末路
勇者アカサタは、ある時、旅の途中で1人の人物に出会いました。
それは、かつて一緒に砂漠渡りに挑戦した、傭兵のリーダーグレイでした。
そこは辺境の地。
アカサタは、最初、それが誰だかわかりませんでした。
家の前に置かれた揺り椅子に揺られ、1人の男がボ~ッと空を眺めています。
“アレ~?どこかで見たような顔だな。誰だったかな~?”
そんな風に思いつつ、声をかけてみることにしたのです。
「もしもし。もしかして、どこかでお会いしたコトがありませんでしたっけ?」
アカサタが、そう声をかけると、男はボンヤリとした表情のまま、こう答えました。
「さあ~?どなたでしたかな~?」
その声を聞いて、アカサタははたと思い出しました。
「あ!グレイさん!グレイさんじゃないですか!」
「はてさて、私の名前を知っているとは。どこでお会いしましたかな?」
そう答える男の姿は、もはや老人のそれでした。実際の年齢は、アカサタよりもひとまわり上くらいのはず。まだ40代かそこら…のはずなのですが、とてもそうは見えません。完全に60歳を越えた風貌と雰囲気です。
それなりに大きな家を買い、それほど不自由をすることなく、グレイは1人で暮らしています。身の回りの世話は、メイドがやってくれているのです。
アカサタは、しばらくの間、元傭兵のリーダーであったグレイと会話し、そういった話を聞き出しました。
老人のようになったグレイが、こう呟きます。
「懐かしいな、あの頃が。一緒に旅し、敵を倒して回ったあの頃が…」
「一体、何があったんだ?どうしたら、そんな風になっちまうんだ?」
アカサタの質問に、声に力なくグレイが答えます。
「燃え尽きてしまったんだよ。疲れてしまったんだ。何もかもに、疲れて…」
「どうしてだ?」
「アレから、私は魔物退治で大金を手に入れ、この家を買った。余生をノンビリくらそうとな。つつましい生活を続ければ、もう一生金に困ることはない。メイドを雇って、身の回りの世話をさせ、酒を飲んでくらすくらいのことはできる。そう思った」
「結構なことじゃないか」
「そう。結構なことだ。だがな、アカサタ。その結構な生活が油断を生んでしまった。ノンビリと暮す、その生き方が、全てを奪っていったしまったのだ。生きる目的を失ってしまった。もはや、何もする気は起きんよ…」
アカサタは、その言葉を聞いて、思い当たるふしがありました。
アカサタ自身、しばらくの間、そうやって時間をつぶして生きていたのですから。けれども、魔王が訪れてきてから、それも変わりました。一念発起して、こうして旅に出たのです。
「さあ、わかったら、もう放っておいてくれたまえ。あとは、この寿命が尽きるのを待つのみだよ…」
アカサタは、そう言われてからも、どうにかしてグレイのやる気を起こそうとしましたが、その試みは失敗に終わりました。
これも、魔物退治に奮闘した男の1つの結末でした。
このような者が、他にも大勢いました。1つの行為に強く激しくエネルギーを注ぎ過ぎた者は、多かれ少なかれ、皆、このような症状に陥ります。あの日々に激しく没頭した者ほど、その後遺症も大きなものとなっていたのです。
まして、戦いの中に身を投じた者は、その戦いが終わったとしても、平和な世の中でまともな生活を送ることができなくなってしまったりするものなのです。
勇者アカサタは、揺り椅子に揺られボンヤリと宙を眺め続ける男を背に、その場を去っていきました。
辺りは、美しく輝く夕日に照らされて、一面オレンジ色へと染まっておりました。