生きる目的
勇者アカサタは、あまり贅沢をしませんでした。
どこに行っても、食べる物と寝る場所くらいは提供してもらえましたし。それだけで、満足でした。
それよりも、「自分は、何のために生きているのだろうか?」という生きる目的のようなモノを探す方が重要でした。
相変わらず、自分探しの旅を続けながら世界をブラついていましたが、答は出ません。時々、気まぐれで人助けをしては、再び考えにふける。そのような日々が続いていたのです。
そんなある日、勇者アカサタは、1人の宣教師に出会います。
宣教師は、生きる目的を失った者たちに「人生とはなんぞや?」と説いて回っています。そうして、多くの人々に生きる希望を与え、数多くの信者を獲得し、この界隈では、ちょっとした勢力を持つ宗教団体を作り上げていたのです。
けれども、アカサタには、それが偽宣教師だと、一発で見抜けました。賢者アベスデから引き継いだ能力の1つに、“姿を変えている者の正体を見破る術”というのがあったからです。
偽宣教師の正体は、コウモリのような翼を持ち、ウナギのような尻尾がはえた1匹の悪魔でした。
アカサタは、人々の前で魔法を使い、悪魔の正体をあばいてしまいます。
信者たちは、それを見て、みんな逃げ出してしまいました。
「お前、こんなところで人を騙して、何をやってるんだ?」と、アカサタが話しかけます。
「ゲッ!お前は、勇者アカサタ!お前のおかげで、オレの人生は散々だ」と、悪魔は答えます。
それは、かつてのストロベリーシティの市長ブルベリ・バナナンヌでした。その正体は、魔王の部下であった悪魔キチ・ムーンです。
キチ・ムーンは、アカサタに向って文句を放ちます。
「お前のせいで散々だ。魔王様は、姿を消してしまわれるし、残った仲間たちも好き勝手バラバラに行動し、世界中に散ってしまうし。仕方がなく、この街で人間たちと仲よく暮らそうとしていたら、またお前が現われて正体をバラしてしまうし。いつもいつも邪魔ばかりして。お前は、一体、何がしたいんだ?」
「そんなコトを言われてもな…オレは、ただオレの生きたいように生きてきただけ。たまたま、その前にお前がいただけだ」
「それが、結果的に、いつもいつもこのオレの人生の邪魔をしてるんだ!アカサタよ!!」
「そいつは悪かったな。別に、そんなに悪気があったわけじゃないんだ。ただ、人を騙してるのはよくないと思っただけさ」
「騙していたといっても、悪いコトをしていたわけではない!みんな、このオレの説法を聞きにきて、生きる希望を取り戻し、幸せになってくれていたのに!それをお前は…」
「まあ、悪かったって。お前も、根っからの悪人ってわけでもなさそうだし、今後は邪魔しないように気をつけるって」
それから、しばらくの間、勇者アカサタは悪魔キチ・ムーンと一緒に過ごしました。
そうして、2人で人生について語り合いました。
「人が生きる意味とは?」
「世界は、どのように変わっていくべきなのか?」
「魔王が、かつて何を目指していたのか?」
「キチ・ムーンがストロベリーシティー市長であった時代に、どのような政策を行っていたのか?」
などなど。
結局、明確な答は出ませんでしたが、それでもアカサタは、以前よりも深く人生について考えることができるようになっていました。




