カカオ豆の栽培
ある所に、1人の少女が住んでいました。
少女は、11歳。普通ならば、小学校に通っている年齢です。
けれども、この辺りの地域はみんな貧しく、それは少女の家も例外ではありませんでした。なので、家族総出で働かなければなりません。幼い頃から、畑を耕したり、遠くの川まで水を汲みに行ったりして、家を手伝います。
どの家の人も一生懸命に働くのですが、生活は一向によくなりません。畑で作った野菜は、あまり高い値で売れないのです。
それでも、カカオ豆はちょっとした値段になりました。他の作物に比べて、栽培が楽な割にいい収入になりました。カカオ豆というのは、ラグビーボールのような形をしたカカオの果実の中にある種で、これがチョコレートの原料になるのです。
少女が住んでいるこの地域は、カカオの生産に非常に適した環境をしていたのでした。
勇者アカサタたちが魔物を退治して世界が平和になると、人々はちょっとした贅沢を望むようになっていきます。その内の1つが、お菓子やケーキなどの甘い物を食べること。
「みんな、お菓子やケーキを欲しがっているぞ!」
「その中でも、特にチョコレートを食べたがっている!」
「チョコレートは万能だ!どんなお菓子にも利用できる!ケーキにだって必要だ!」
「チョコレートが嫌いな奴なんて、いない!」
「もっとチョコレートを作れ!もっと!もっとだ!そのためには、もっと大量のカカオ豆が必要になる!カカオの生産を増やすのだ!」
お菓子会社やケーキ職人たちは、そのように叫びます。
こうして、この地域では、カカオの栽培が盛んになっていきます。
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ところが、ここで1つの問題が起こります。
カカオの生産を増やせば増やすほど、その価格は下がっていってしまったのでした。そうして、以前よりも低年齢の子供たちまで労働に駆り出されるようになります。それでも、働けど働けど暮らしは豊かになりません。
少女は、学校に通う暇もお金もなく、今日もカカオ畑へと働きにでかけるのでした。
そこに1人の旅人がやってきます。
それは、自分探しの旅を続けている勇者アカサタでした。
アカサタは、相変わらず明確な目的もないまま、世界中をブラブラと歩き回っています。そうして、たまたまこの辺りを通りかかり、少女たち現状を知りました。
「なんだ?なんだ?こんな年端もいかない子供が働いてるのか?それも、かなりの過酷な労働じゃないか」
「仕方がないのよ。この辺りでは、これが当たり前なんだもの。運が悪かったのね。生まれてきた時に、運命は決まってしまっていたの」
少女は、アカサタに向って、そう言います。
それを聞いて、勇者アカサタは思いました。
“なんだか悪いコトをしている気分になってきやがったな。このオレは、こんな風に金に困るようなコトもなく、自由に世界をブラついていられるっていうのに。こんな子供が、身を粉にして働いてるだなんて…”
それから、アカサタは、少女に向って言いました。
「よっし!わかった!このオレ様が、なんとかしてやろう!」
こうして、勇者アカサタの奮闘が始まります。