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最低こそが最高になれるのだ!

 ある夜、勇者アカサタは、宿屋のベッドの上で夢を見ました。

 それは、以前に見た夢の続きでした。


         *


 こことは別の世界。

 そこには、魔物も住んでいなければ、魔法も存在していません。

 大都会の真ん中で、アカサタは浮浪者たちに混じって、期限切れのコンビニ弁当を食べています。


「だから言っただろう?この生活は最高に自由なんだって!」

 満面の笑みをたたえてそう言ったのは、青年の姿をした魔王でした。

「1度、この生活を味わったら、2度と元の生活には戻れやしないな」

 そのセリフをはいたのは、“魔王の4本の腕”と呼ばれた者の1人、氷雪のノーザンクロスです。

「自由最高!人生最高!これこそ、“生きてる!”って感じがするわ!」

 こっちは、樹木のサウザンカ。

「アクセクとマジメに働くなんてバカバカしいや!こうして、家もなく、ノンビリと公園に寝泊まりする。これに勝る幸せはないね」

 そう言ったのは、風のイースティン。

 他にも、愛のウエスタニアの姿もありますし、アカサタがこれまで倒してきた魔王の手下たちの面々があちらこちらに座っています。

 みんな、以前とは違って、ボロボロの服を身にまとっています。が、その表情は、みんな共通して明るいのです。


「これは…一体、どうなってんだ?」

 アカサタが疑問の声を上げると、浮浪者の1人が答えます。

「見ての通りさ。これが、魔王の軍団の正体」

 続けて、他の浮浪者たちも次々と言葉を重ねていきます。

「オレたちゃ最低の人間さ」

「だからこそ、真実を知っている!」

「だからこそ、幸せに生きてける!」

「何もできぬ。なんの能力も持たぬからこそ、心の底から人生を楽しめる!」

 やがて、浮浪者たちの言葉はリズムに乗り始め、みんな立ち上がって踊り始めます。


「ダンス♪ダンス♪ダンス♪」

「踊れや、踊れ♪アホウになって♪」

「人生は、自由♪幸せになりたいならば、自由になれ♪束縛された社会から、解放されよ♪」

 どこで拾ってきたのか、みんな、お酒を手にしています。

 アルコールが入って、浮浪者たちは、さらに激しく踊り出します。

「狂えや、狂え♪」

「子供に戻って♪」

「幼児に戻って♪」

「赤ん坊に戻って♪」

「みんな、あの頃は、自由だった♪幸せだった♪」

「それが、いつの間にか縛られてしま~う!」

「社会のしがらみにがんじがらめにされて!」

「心の平穏を失ってしま~う!」

「解放せよ♪解放せよ♪解放せよ♪心を解放せよ~♪解放せよ♪」


 浮浪者たちの一団に混じって一通り踊り、踊り疲れたアカサタは、輪になって踊り続ける浮浪者たちから距離を取り、1人地面に座ります。そこへ、魔王がやってきます。

 魔王は、アカサタと2人きりになると、言いました。

「これで、わかっただろう?勇者アカサタよ。オレもお前も、ここにいる者たちも、この世界では最低の人間さ」

「どうやら、そのようだな…」と、アカサタ。

「だがな、だからこそ、最高に生きていける!この世界でも、別の世界でも」

「別の世界でも?」

「そうだ。この世界で、何の能力も持たず、世間の人間たちからさげすまれて生きている者たち。それが、別の世界では最高の力を持って生きている。それらは表裏一体。いや、実は同じモノなのだ」

「同じモノ?」

「そうだ。根本的には、同じなのだ。完全に同一だと言ってもいい。社会から外れて生きていく。世界に反抗しながら生きている。そういう意味では、全く同じなのだ。ただ、表面上は違って見えるだけで」

「わかったような、わからないようなコトを言うヤツだな…」

「もっとわかりやすい言葉で言ってやろう。この世界で最低の人間。それが、異世界では最高の能力を持つ!最低こそが最高になれる可能性を持っているのだ!」


         *


 目が覚めると、そこは宿屋のベッドの上でした。

 アカサタは、目が覚めてからもベッドの上に寝転んだまま、ボ~ッと考え続けていました。

「さっきの夢は、なんだったんだろう?なんだか、おかしな夢だったな。ムチャクチャで、どうしようもなくて。けど、ほんとにみんな楽しそうだった。さっきまで、あの連中に混じって一緒に踊っていた気がする…」

 そう言ったアカサタの体は、あちこちが激しい運動をした翌日のように痛んでいます。なんだか、頭もガンガンします。お酒を飲み過ぎた次の日みたいです。

「まさか、この世界と同じように、あっちの世界も現実なんじゃないだろうな?いや、そんなバカな…」

 そうして、ベッドの上で、放心状態でボ~ッとし続ける勇者アカサタでありました。

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