ひさびさに宗教都市マービルへ
ここは、宗教都市マービル。
アルファベ国の首都アルファベからも直通列車が出ています。
昔は、人々も馬車や馬などで移動していましたが、今や、その必要はありません。人も荷物も、汽車で運ぶことができるようになったのです。
駅を降りた勇者アカサタは、一言、こう呟きます。
「便利になったものだな…」
それから、歩いて、山の中腹にある“公平寺”へと向いました。
*
「ヤッ!」
「ハッ!」
「トウッ!!」
と、お寺の敷地内からは、激しい掛け声が聞こえてきます。中では、修行僧たちが、厳しい訓練に励んでいるのでした。
公平寺は、“マービル摂理教”の総本山となっており、数多くの修行僧が、寝食を共にしています。
そうして、厳しい修行の末に“気の力”を身につけると、その効果で肉体を変化させて戦ったり、馬のように速く走れるようになったりと、様々な能力を発揮できるようになるのでした。
ちなみに、勇者アカサタも、ある程度の修業を積んでおり、手から電撃を発したり、体内から毒素を追い出したりといったコトができるようになっています。
*
お寺の小坊主に取りついでもらい、アカサタは和風の客間へと通されました。
公平寺には何かと知り合いが多く、顔パスなのです。
勇者アカサタが客間で座って待っていると、懐かしい顔ぶれが訪れてきます。
最初に現われたのは、髪もヒゲも真っ白な老人、落水木でした。
その名は、“木の板に流れる水が、上から下に自然に落ちていくがごとく、人は自然の法則に素直に従って生きていくべきである”という意味を表わしています。
「ホッホッホ。ひさしぶりじゃのう」
落水木は、以前に会った時と同じように元気そうでしたが、少し滑舌が悪くなったようです。
「はい。どうも、おひさしぶりです」と、アカサタは丁寧な言葉づかいで返事を返します。
「その後、どうかね?おぬしのおかげで、再び世界に平和がもたらされたという話じゃが。それから、どうしておった?」
「はあ。それが恥ずかしながら…」
と、勇者アカサタは、説明を始めました。
ここ数年間、大したコトもせずに、ノンビリと過ごしてしまったこと。さすがに、それは無駄な時間の過ごし方だと気づき、旅に出たこと。人生の目的を探してさまよっていること。
それを聞いて、落水木は答えます。
「フム。まあ、人生というのは迷いの連続じゃよ。悩みに悩み、迷いに迷って、その先に光が見えてくるものじゃ。おぬしも、存分に迷い苦しみ、答を見出すがよい。その答は他の誰にも見つけられはせぬ。心の底に、自分だけが真の答を持っておるものじゃよ」
そんな話をしていると、次の人物が部屋に入ってきます。
次にやってきたのは、風揺葉でした。
“風に揺られる葉のように緩やかに爽やかに生きていこう”という生き方を、その名が示しています。
「デブールのヤツは、まだ他の者たちに稽古をつけている最中だ」
ゲイル3兄弟も、アレから3人とも結婚して、公平寺に残っているのは、デブのデブールだけとなっていました。
お寺の中は“女人禁制”となっており、デブールは、妻子を街に残してこのお寺にやって来ているのです。そうして、後輩の僧侶たちの修業を見てやっているのでした。
ちなみに、頭がツルッパゲのハゲールは別の街へと出向き、マービル摂理教の教えを広めようと、家族で普及活動に励んでいます。
それから、アゴのなが~いアゴールはというと、あの女海賊マリン・アクアブルーと結婚し、船に乗り込んで、世界中を航海して回っているのでした。
そんな話を3人でしていると、デブのデブールがやって来ます。
「やあ!アカサタの兄貴!これはこれは、おひさしぶりっす!!」
「よう、デブール。お前も元気そうだな」
「元気も元気!おかげで、ホラ、この通り!さらに体重が増えてしまったっすよ!!」
見ると、元々巨漢であったデブールですが、その大きさにさらに拍車がかかっています。
「お前な…このまま膨らみ続けてると、今に地面にめり込んじまうぞ!」
「ワッハッハ!」と、アカサタの冗談にデブールが大きな笑い声を上げます。つられて、落水木と風揺葉の2人も静かに笑顔を見せました。
それから4人は夕食を共にし、その夜、アカサタは公平寺に部屋を借りて、泊まらせてもらいました。