自堕落な勇者
勇者アカサタが魔王と対決してから、数年の時が経過しました。
その間に、世界はいろいろな部分で姿を変えていきます。
魔王は約束を守り、新しい魔物が生み出されることもなくなりました。
残った魔物たちの残党狩りが行われ、その数は徐々に減っていきます。
もはや、畑を耕したり、海に漁に出かけたりするのに、魔物の攻撃に怯える必要はなくなりつつありました。
けれども、アカサタは相変わらず、何もせずに自堕落な日々を過ごしていたのです。
その姿を遠くから眺めていた神様は、こんな風に呟き、嘆きました。
「ああ、アカサタ。アカサタよ。お前は、なぜ、そんなにも愚かなのか。それだけの力を手に入れながら、なんともったいないことか…」
勇者アカサタは、“魔王討伐”を目的に掲げ、その冒険の末に、とんでもない強さを手にしました。
行方をくらましてしまった魔王を除けば、この世界最高の能力を持った者と言ってもいいでしょう。にも関わらず、アカサタはその力を有効活用しようとはしません。
ただ、毎日を楽しく暮らせれば、それでいいのです。まさに“宝の持ち腐れ”
ただし、勇者アカサタを擁護するわけではありませんが、そこには1つの理由がありました。
世界が平和になったおかげで、魔物と戦う必要もなくなり、戦闘能力を必要とされない世の中に変わってしまっていたのです。
それは、アカサタに限ったコトではありません。
多くの冒険者たちが職を失い、人生の目的を失った者たちがボ~ッとして過ごすようになってしまっていました。
一部の者たちは、“国の警護兵”や“国家お抱えの魔術研究者”として働くことができていましたが、残りの者たちは、職にあぶれ、無意味な日々を送っていたのです。
かといって、一般人が行うような単純労働も性に合わず、すぐに投げ出してしまう始末。
街中に、無職の男たちがあふれています。男だけではありません。かつて魔物との戦いに明け暮れ、“英雄”ともてはやされた冒険者たちが、今や、完全に邪魔者扱い。男も女も、自分の力を持て余しながら、ただ時間が過ぎていくのを、指をくわえて眺めているだけなのです。
そうして、昼間っからお酒を飲んだり、ギャンブルに興じたりして、何の役にも立たず時間を浪費してばかりいます。
それは、アルファベの街に限った話ではありません。世界各地で、同じような光景を見ることができます。
どこの国にも、どこの街にも、多かれ少なかれ、似たような人間が住んでいました。
この世界には、こんな言葉があります。
「1度、戦争に参加した者は、2度とまともな人生を送れはしない。戦いの快感を味わった者に、平和な世界は退屈過ぎるのだから」




