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魔王との戦い始まる

 魔王は、勇者アカサタたちの前に姿を現すと、口を開きました。

「ひさしぶりだな、賢者アベスデよ。だが、もはや、お前の役割は終わりを告げようとしている。始まりを意味するアベスデ(ABCD)を、終わりであるこの魔王ダックスワイズ(WXYZ)が滅ぼす時が来たのだ。あとは、そこにいるアカサタが、我が退屈さを埋めてくれることだろう」


 賢者アベスデは、その言葉を聞いて、いきどおります。

「何をぬかすか!この世界を混乱に導いた元凶であるお前を生み出したこの私の罪。この私自身の手でつぐなってみせるわ!!」

 向ってくるアベスデの攻撃を避けるように、魔王ダックスワイズはふわりと宙に浮くと、そのまま空高く昇っていきます。

「そう。われを生み出した者よ。異世界より来たりて、この世界で能力を極めんとし、自らの欲望を追い出した者よ。結果的に、その追い出した欲望の方が、この世界で最高の能力を持つ者になろうとは。皮肉な話よの」


 それを聞いて、みんなは驚きます。

「異世界からやって来た?アベスデさんが?」と、驚きと疑問の声を上げたのは炎系の魔法の使い手スカーレット・バーニング・ルビー。

「その通り!この私もまたアカサタと同じく、別の世界で生まれ、この世界へと転生してきた者。私は、アルファベ国の王家の血筋を引く者として、この世界に赤ん坊として生まれたのじゃ。その後、以前の世界での知識を使い、この世界で能力を極めようとした。じゃが、そんなコトは、もはやどうでもよい!目の前におるコイツを倒す。今となっては、それだけが私に課せられた使命じゃ!!」

 そう叫ぶと、手にした杖から炎でできた竜巻を生み出す賢者アベスデ。


 それに対抗するかのように、水流の竜巻を発する魔王ダックスワイズ。

 2つの竜巻は空中でぶつかり合って、相殺そうさいされます。


 魔王は、続けてこう言ってから、次の魔法を発動します。

「その前に、まずは邪魔な出演者たちに舞台から降りてもらうとするかな」

 魔王ダックスワイズが呪文を唱え終わると、さっきまで晴れ渡っていた空を、急に灰色の雲がおおい始めます。

 さらに、雲は灰色から黒に近い色へと変わっていき、同時に土砂降どしゃぶりの雨が降り出します。続けて、無数のいかづちが大地へと向けて降り注ぎます。

 降り続く雨は、激流となり、押し流されてゆく大勢の兵士たち。あるいは、雷に撃たれて意識を失ってしまう者も何人もいます。


 賢者アベスデを中心として、魔術師たちが、魔王に向って遠距離魔法を放ちます。

 が、魔王ダックスワイズは、雑作もなくそれらの攻撃を防いだり、かわしたりしていくのです。


 暴れ竜リベロ・ラベロも、飛行しながら、魔王に向って突進していきます。

「お前に対しては、これだ」

 そう言うと、魔王はリベロ・ラベロの突進をひらりと避け、次の呪文を唱えます。

 すると、空間がゆがみ始め、そこから巨大なドラゴンが顔をのぞかせました。そうして、そのままリベロ・ラベロに勝るとも劣らぬ体格をした大きなドラゴンが召還されました。それも、3体も!


 それを見て、逃げ出す者が大勢出ます。

「駄目だ!桁が違う!」

「これが魔王の力。想像以上だ…」

「こんな奴に勝てるはずがない!!」

 そんな風に叫んで、意志の弱い兵士や冒険者たちは、早々に退却していきます。


 その様子を眺めながら、魔王ダックスワイズは語ります。

「それでよい。人には自由がある。戦う自由も、逃げ出す自由も。その結果、戦場で命を落としたとして、それはその者の選んだ人生。運命なのだ。生きる自由も、死ぬ自由もある。その者の人生というのは、誰かに決められているわけではない。結局は、自分自身で選択し、導いているのだ。細かい選択肢の積み重ね。それこそが“運命”というものなのだ」


 それでも、まだ多くの者が戦場に残って戦い続けていました。

 敵は1人。たった1人。けれども、そのたった1人の敵を倒すことができません。それどころか、簡単にあしらわれてしまっている始末。


 そんな中、勇者アカサタは何をしていたのでしょうか?

 残念ながら、何もしていませんでした。ボ~ッと戦場に突っ立って、迷い続けていました。

「ほんとに、この戦いは必要なのだろうか?魔王は、倒すべき存在なのだろうか?」と。

 まるで、かつての世界でニートであった時と同じように、迷ったり悩んだりしながら、結局、何もできず、動けないままでいたのです。

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