いざ、魔王の城へ
その後も、勇者アカサタは決心がつかないまま。
けれども、結局、周りの意見に流されるように魔物退治を続けます。
南の地にある“樹木のサウザンカ”の守る魔物の生産工場へと攻め込むと、瞬く間にその地を占拠しました。
そこは南国の大きな島で、海の生物たちがウヨウヨしていて、“魔物の生産工場”でも海洋系の魔物が大勢生み出されていました。
何体ものクラーケンが、暴れ竜リベロ・ラベロの体に絡みつき、動きを止めます。
それでも、今の勇者アカサタにとっては、そんなものは敵ではありません。かつて戦った頃から、格段、戦闘能力は上がっているのですから。
ザクザクと、巨大なイカの化け物を短冊切りにすると、“魔王の4本の腕”の1本である樹木のサウザンカに向っていきます。
サウザンカの方も、あまり本気ではないようでした。手ごたえを全く感じません。ちょっと戦っただけで、すぐに逃げていきます。
「なんだか、拍子抜けね。以前は、あんなに強大に思えた魔王の軍団も、あんまり強さを感じなくなってきちゃった」
「ほんとに。それだけ、アタイたちが成長したってことかも知れないけど」
そう、スカーレット・バーニング・ルビーやマリン・アクアブルーも言っています。
「油断するではないぞ。まだ最大にして最強の敵が残っておる。魔王を倒すまでは、何も終わってはおらん」
賢者アベスデは、そう言って、みんなに釘を刺します。
*
最後の四天王を倒し、残るは魔王のみとなりました。
そうして、賢者アベスデの指揮のもと、アルファベ城の真反対、この星を半周した地に位置する“魔王の城”へと攻め込むことが決まりました。
“これが最後の戦い!”と、世界中から冒険者たちが集まってきます。
けれども、相変わらず勇者アカサタは、あまり気が進みません。
アカサタは、魔王と戦うことをためらっているようでした。やっているコトと、心にある思いがバラバラで、身が引き裂かれそうな感覚に陥ります。
「ほんとに、魔王の奴は悪い奴なのか?倒さなければならない存在なのか?」
ここにきて、そのような迷いが生じてしまっていたのです。かつての勇者たちと同じように…
まるで、人形劇に使うマリオネットのごとく、誰かに操られているように、自分の人生を自分で決められない勇者アカサタ。ただ単に周りの人々の言葉に従い“仕方なく”動き続けるのです。
それでも、いざ戦いとなれば、体が勝手に動き、戦果を上げていきます。これまでの経験から、もはや難しいコトを考えずとも、目の前に存在する敵を倒すコトができるのでした。
*
魔王の城での戦いは熾烈を極めます。
…となるはずでした。
けれども、実際は、そうではありません。
魔王は、自分の城にろくな守りもつけず、ほとんどもぬけの殻。
「ほんとに、ここが魔王の城なのか?」
「騙されたんじゃないのか?」
「そもそも、魔王の方から自分の根城を教えてくれるだなんて怪しいと思ってたんだよな~」
兵士たちの間に、そのような不安の声が広がります。
賢者アベスデも、疑問を感じ始めていました。
「さては、魔王の奴に1杯食わされたか?しかし、あやつがそういう戦法を取るじゃろうか?このような場合、いつも正々堂々と戦いを挑んできていたはずじゃった。それだけ、自らの能力に自信を持っておった。それなのに、今回だけ戦い方を変えてくるとは…」
その時でした。1人の人物が姿を現したのは。
それこそが、この城の王。この世界を陰から支配し続けてきた魔王ダックスワイズその人でありました。