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水の魔法、ビショとバシャーン

 ここのところ、勇者アカサタは、マジメにモンスター討伐へと出かけていました。

 人と協力するのは嫌いでしたが、それも我慢してこなしています。そうして、ヘコヘコしながら、お金を集めていくのです。なぜかというと、そこまでしても、どう~しても買いたい魔法があったからです。

 それは、水の魔法でした。1つは金貨1枚、もう1つは金貨5枚もの値段がします。合わせて、金貨6枚。アカサタが元いた世界での価値は60万円前後。ちょっとした自動車が買えちゃいますね。


         *


 どうにかこうにか目標金額を溜めた勇者アカサタは、例の魔法屋さんで、2つの水魔法を購入しました。

 魔法屋さんの店員さんは、「金貨6枚になります。お買い上げどうもありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と、いつも通りの丁寧な対応です。


 さっそく、勇者アカサタは、いつもの空き地へと出かけ、特訓開始!!

 今回も、瞬く間に新しい魔法を習得してしまいました。

 新しく覚えたのは、“ビショ”と“バシャーン”という2つの魔法。

 ビショは、指先から水鉄砲のように水を放出し、敵を攻撃する技。バシャーンの方は、敵の頭上に大量の水を降らせる能力です。

 それにしても、なぜ、このような魔法が必要なのでしょうか?なんだか、怪しいですね~?


         *


 勇者アカサタは、覚え立ての魔法を試す為に、またもや街の中心地へとやって来ました。

「女勇者ハマヤラの奴も、今日は別の冒険者のパーティーに加わって、夜までは帰ってこないはず。この期を逃すわけにはいかない!!」と、やる気満々です。

 アカサタは覆面をかぶると、1つ目の魔法を試してみました。

「ビショ!」

 小さな声で、そう叫び、女の人を目がけて水鉄砲を食らわせます。

「冷たッ!!」

 ビショの魔法を食らった女性は、悲鳴を上げて驚きます。

「おお~!これは、いいぞ!」

 勇者アカサタは、心の中で喜びの声を上げました。女性の服が水に濡れて、肌が透けて見えるのです。

 調子に乗って、次から次へと女性の服を濡らしていきます。そのたびに、心の中で歓喜の声を上げる勇者アカサタ。まるで、辻斬り。完全に犯罪者です。

「ヨシヨシ、ビショの魔法は成功だな。ただ、これだと至近距離に近づかなければならない上に、威力も弱い。もう1つの方も試してみるか…」

 そう、物陰で1人呟く勇者アカサタ。


 今度は、水魔法バシャーンです。

 強力な魔術師が使用すれば、空から大量の水を降らせることも可能になってきますが、アカサタの能力では、そこまではできません。それでも、バケツ1杯程度の水を相手に浴びせさせることくらいは可能です。

 勇者アカサタは、呪文を唱え、魔法を放ちます。

「バシャーン!」

 10メートル以上も離れた女性の頭の上に、突然、水が現われて降り注ぎます。

「キャ~!何なのよ!!」

 女性は、驚いて辺りを見回しています。

「おっかしいわね。こんなに晴れているのに、急に雨が降ってくるだなんて…」

 ズブ濡れになった女性は、不思議そうにしながら、去っていきました。


「オッシ!成功だな!」

 勇者アカサタは、建物の陰からガッツポーズで喜びます。

「これは、使える!だが、これは疲れる。1発放っただけで、結構、疲労が溜まるな…」

 ビショと違って、バシャーンの方は、消費する魔力も大きいようです。

 それでも、もう何度か試してみて、威力や射程距離を確認しました。

「どうやら、10~15メートルといったところか。それ以上離れると、魔法が届かなくなるらしい。距離が離れると、命中率も下がってくる。現状ではこれが限界か。もっと修業して、成長しなければ…」

 妙なところは、研究熱心です。その熱意と能力を、もっと別の方向に向けられればいいんですけどね。

「では、最後にもう1発だけ…」

 そう言って、勇者アカサタは残った魔力で最後のバシャーンを放ちます。

 けれども、疲労が溜まっていたせいでしょうか?狙っていた女性には命中せず、後ろから歩いてきた別の女性の頭の上に水を浴びせかけてしまいました。

「え?何?敵の攻撃?」と、その女性は一瞬驚いたようでしたが、すぐに冷静さを取り戻し、臨戦態勢に入ります。

 全身ズブ濡れになった女性は、その身を全て緑系統の衣装で固めています。そう!まぎれもなく、それは美しき女性魔術師、植物系魔法の使い手エメラルドグリーンウェル嬢その人でありました。


 さすがの勇者アカサタも、これには焦りました。エメラルドグリーンウェル嬢は、アカサタの憧れの人なのです。

「やっべ!やっちまった!」

 そう叫ぶと、アカサタは覆面を脱ぎ捨て、街道へと飛び出します。

 それから、地面に頭をこすりつけて平謝りに謝ります。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!申し訳ありません!」


 それを見たエメラルドグリーンウェル嬢は、落ち着いた声で、こう答えました。

「まあ、あなただったの。勇者アカサタさん」

 同時に、心の中でこう思いました。

 わたくしは、大人の女性。こんなところで、感情的になって年下の男性を叱ったりしてはいけないわ。ここは、冷静に対処しなければ。

「これは事故なのです。完全な事故。決して、わざとやったわけではありません。ほんとうです。信じてください。新しく覚えた魔法を試していたら、誤って、あなたに当ててしまったのです」

 勇者アカサタも、そう言っています。ここは、その言葉を信じることにいたしましょう。そう、エメラルドグリーンウェル嬢は思いました。そうして、全身ズブ濡れのまま、こう答えました。

「構いませんことよ。誰にでも、ミスはあるものです。今後は、お気をつけになってくださいね」

 

 勇者アカサタの方も、その言葉を聞いて一安心。

「さすがに、チョイデカおっぱいさん。寛大な人だ。いやでも、それにしても、これはこれで。ゴクリ…」

 勇者アカサタは、ビショビショになって、服の上から褐色の肌が透けて見える姿になってしまったエメラルドグリーンウェル嬢を、上から下まで舐め回すように眺めながら、そう思いました。

 さらに、こんな風にも…

「美女がビショビショ。いいシチュエーションだ」

 もちろん、これらは心の声。決して、口に出して言葉にしたりはいたしません。


 その後、エメラルドグリーンウェル嬢は、シャワーを浴びて服を着替える為に、自宅へと帰っていきました。


         *


 その夜、街の人に話を聞いた女勇者ハマヤラによって、ボコボコにされた勇者アカサタでありました。

 チャン♪チャン♪

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