異世界から訪れし者たち
戦いが終わって、また、いつものように残務処理が始まりました。
まだ、いくらかの魔物は残っていましたが、もうそれほどの強敵はいません。ゲイル3兄弟やスカーレット・バーニング・ルビーたちが中心となって、残りの魔物を捕らえたり、殲滅したりしていきます。
勇者アカサタは、戦場の真ん中で立ち尽くしています。様々な思いが心の中を駆け巡り、うまく処理できずにいたのです。それで、ボ~ッと立っていることしかできませんでした。
放心状態で立ち尽くし、この短時間に起こったコトを1つ1つ思い起こしていきます。
けれども、それらの記憶や思いは、頭の中でグチャグチャになり、次から次へとフラッシュバックしていくばかり。まるで、画用紙の上にムチャクチャに描かれた子供のラクガキのように。
*
次に、アカサタが意識を取り戻した時、全然別の場所に座ってしました。
そこは、近くの村の酒場でした。
確かに、そこまで、他のみんなと一緒に行動してきたはずなのに、全く思い出にないのです。まるで、他人の人生みたいに。他の人の人生を、小説で読んでいるか、映画で見ているような感覚。
記憶自体はあるのですが、そこに感情がこもらないのです。
「兄貴、一体どうしたんですかい?」と、ゲイル3兄弟の1人、ハゲのハゲールが尋ねてきます。
「そうそう。ずっとボ~ッとしたまんまで、アカサタらしくないわよ」と、スカーレット・バーニング・ルビーも言います。
ハープ奏者パールホワイト・オイスターが、手にした竪琴で、やさしい曲を奏で、アカサタの気持ちをやわらげようとしますが、どうにもうまくいきません。
突然、女海賊マリン・アクアブルーが立ち上がり、アカサタの顔を目がけて平手打ちをかまします。
バチ~~~~~~ン!
酒場中に響き渡るような音を立てて、頬にキツ~イ一発を浴びますが、アカサタはボ~ッとしたまま。
「効果はないようね…」と、呟くとマリン・アクアブルーは、自分の席へと戻っていきました。
「そういえば、ハマヤラさんはどうしたの?」
「確かに。ハマヤラのあねごの姿を見かけないっすね」
「まさか、さっきの戦いでやられちゃったんじゃ…」
みんなが、そんな風に会話していると、ようやく勇者アカサタに反応がありました。
「ハマヤラ…」
一同は「お?」という顔をして、アカサタの方を向きます。
「ハマヤラ。奴は消えたよ…」
*
そこから、勇者アカサタの説明が始まります。
自分は、この世界の人間ではないこと。神様の力で、この世界へと飛ばされてきて、別の人間として新たな人生を歩み始めたこと。ハマヤラも、やはり同じで、自分を追いかけてやって来た母親であったこと。そうして、全ての能力を託し、この世界から消え去ってしまったことを。
相変わらず、半分ボ~ッとしたままのアカサタ。
それでも、ポツリポツリと語り続けます。その言葉には、精気がこもっておらず、まるで人形が喋っているよう。
「まさか。兄貴が、この世界の人間じゃなかったなんて…」
「なるほど、それで、お前さんが急に強くなったことにも合点がいくな」
「そういえば、思い当たる節がある。アンタ、時々、意味のわからないコトをほざいてたものね。こことは別の世界の話だと考えると、納得できるわね」
アカサタの周りを取り囲む人々は、口々にそんな風なセリフを吐いていきます。
「そういえば、聞いたコトがある。この世界には、歴史上、別の世界からやって来た者たちが何人もいたという話を…」と、アゴの長いアゴールが言います。
「そうして、その中の数人は、この世界の神になったという。その内の1人が、“マービル摂理教”の創始者“マービル”その人なのだと」
アゴールのその言葉に、デブのデブールが反応します。
「じゃあ、兄貴は神なのか?神になる人間なのか?」
「さあ、それはわからんが…」
ここで、アカサタが、フッと軽い笑みを見せました。
「よせやい。オレは神なんかになりたいわけじゃない。このままの人生で、充分満足だぜ。きっと、神になんてなったら、人間の女の子のおっぱいも揉めなくなるだろうしな」
「でも、神様なら、やりたい放題できるんじゃないっすか?きっと、おっぱいだって揉み放題ですぜ」
「お?そうか?じゃあ、神ってのも悪くないな!」
アカサタの冗談に、一同は声を上げて笑います。
ようやく、ちょっと場がなごんだようです。
「ま、何にしても、全てはこれからじゃな。残りの魔王の配下の者を倒し、魔王そのものも討ち倒し。それで、ようやく世界は平和になる。とりあえず、そこまでは、やってもらわねば」
賢者アベスデの言葉に、「ま、そうだな」と頷く勇者アカサタでありました。